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神無月(3)

 二年前、鳴海先輩がこの部室にいた頃の景色をまだ覚えている。
 先輩がいる時、部室はいつも静かで、張り詰めていた。他の先輩たちは滅多に鳴海先輩には話しかけなかったし、用がある時も腫れ物に触るように接していた。誰にも厳しく言葉に遠慮のない人が他の先輩がたと相容れるはずもなく、鳴海先輩が一度席を離れると、部室には緊張感の代わりに陰口が溢れた。先輩がいる時は部活に出ないと言い切る部員さえいた。
 当時一年生部員の私は鳴海先輩の作風に心惹かれていたけど、それを先輩本人に伝える勇気はなかったし、かと言って他の部員の陰口を咎める行動力もなかった。それに私は創作をするよりも本を読んでいる方が好きで、誰もが創作活動に熱心な文芸部の気風になかなか馴染めなかった。入る部活を間違えたかもしれない、と考えたことだってあった。
 でも、読書をする私に鳴海先輩が声をかけてくれて、本に対する意見を尋ねられて、そこから感想を交換し合うようになって――私は先輩と話せるのがなぜだか無性に嬉しかったし、そのうちに鳴海先輩が自らの作品を読ませてくれるようになったことも光栄だと思っていた。先輩の方も私の意見を重宝なものと考えていたようで、そこからぎこちなくもささやかな交流がスタートした。
 あの頃から比べると、文芸部の気風も、鳴海先輩も、そして私自身が大きく変わった。

 ほぼ二年ぶりに訪れた部室で、鳴海先輩は私の真向かいに座っている。
 顔立ちは元々大人びていた人だから、高校時代とはあまり変化がない。背丈は相変わらず高いままだし、羨ましいほど痩せているのも変わりなかった。せっかく学生服から解放されたというのにモノトーンばかり着ているのも、ある意味変わっていないと言うべきかもしれない。
 違うのは私に向ける眼差し、だろうか。
 先輩は、受け取った原稿を読もうとページを開く私の手元をじっと見つめている。目つきこそいつも鋭い人だけど、黒々とした瞳に昔のような苛烈な光はない。そして思いがけず目が合えば、驚いたような反応の後で勢いよく視線を逸らされた。
「俺を見てどうする。いいから早く読め」
「すみません」
 私は謝ったけど、先輩だって私のことばかり見ていたのだから同じだと思う。
 もっともそれを口にすると機嫌を損ねるだろうし、後輩たちの前ではさすがに言いにくい内容でもあるから、それからは黙って原稿に目を通すことにした。
「鳴海先輩!」
 ボーイソプラノの声が先輩を呼び、すぐにテーブルを挟んで向かい側の椅子が引かれる音がした。ちらっと視線を上げると、いつの間にか鳴海先輩の隣に有島くんが座っている。彼は身体ごと真横を向き、先輩と膝をつき合わせるようにして切り出した。
「この間に一つ、ご意見伺いたいことがあるのですが!」
「……何だ」
 先輩がうろんげに聞き返すと、有島くんはすぐさま話に入る。
「実は今年度の文化祭で、仮装したり展示を装飾したりしようって話が出たんです」
「仮装? 着る方のか?」
「そうです。それで、部長ともう一人の部員がすんごいメルヘンなテーマにしたいって言うんですけど……」
 有島くんは部室内をぐるりと見渡し、私と荒牧さんの反応を窺ってからもう一度、鳴海先輩に向き直った。
「先輩はどう思います? 真面目なうちの部にメルヘンはちょっと合わないですよね? どう見ても明らかに俺だけ浮くって言うか、ぶっちゃけ女子しか喜ばないだろうって言うか!」
 まくし立てられて鳴海先輩は困惑しているようだ。必死に訴える有島くんから私の方へ視線を移すと、訝しそうに問われた。
「どういうことだ」
 私も原稿を読むのを中断して、笑いながら答える。
「まだ構想段階ではあるんですけど、物語の世界を模した展示にしたらどうかって意見が出ていたんです。今のところ候補に挙がっているのが『不思議の国のアリス』でした」
「なるほどな」
 作品名を聞いた途端、先輩は得心したようだった。どこか同情的な目を有島くんに向けている。
 それを好機とばかりに有島くんは畳みかける。
「普通に恥ずかしいですよね? 鳴海先輩からも是非部長に言ってください、どうせ白うさぎか何かやらされるであろう男子の気持ちも考えてって!」
「うさぎが嫌なら、有島くんがアリスでもいいんだよ」
 荒牧さんが口を挟むと有島くんはぶんぶんかぶりを振った。
「いいわけあるか! 論外だろ!」
 もちろんまだアリスで決定というわけではないんだけど、もし多数決を採用するなら文化祭の展示はメルヘン方向に舵を切ることになるだろう。せめて有島くんには恥ずかしくならないような役柄を見繕ってあげるしかない。
 鳴海先輩はどこか呆れたように三つ年下の後輩を見ていた。そして私に対しても、鼻で笑うような調子で言ってきた。
「随分と奇妙な企画を立案したものだ」
「そういうのも、お客さんを呼ぶにはいいかなと思うんです」
 私も笑いながら答える。
 今の回答をどう思ったんだろうか。鳴海先輩はじっと私を見据えた。
「そんな話、昨年度までならありえなかっただろうな」
 本当にそうだ。私も考えもしなかったし、もし仮に、アイディアが奇跡的に浮かんでいたとしても、当時の先輩がたに対して意見を述べる勇気は持てなかっただろう。だから頷いた。
「そうですね。今年度はちょっと、冒険してみようかなって」
「今はお前が部長だ。必要だと思うなら、好きにやればいい」
 鳴海先輩はそう言った。
 そう言われるかもしれないとは思っていた。だけど予想していた以上に柔らかく告げられたようだ。おまけに表情までわずかに和ませて、更なる言葉をくれた。
「お前なら何をやっても、度を越したものにはならないだろうからな」
 面食らってしまいそうになるほど信頼に満ちた言葉だった。
 背中を押してくれたらいいなと思ってはいたけど、本当に押されるとどうしていいのかわからなくなってしまう。どうしよう。そこまで言ってもらえるなんて思っていなかった。
 たまらなく嬉しくなって、私は返事に詰まってしまう。口元に浮かぶ笑みも堪え切れず、先輩から預かった原稿の束で隠しておく。それでも赤くなっているであろう頬までは隠せていないに違いない。困った。
「なんてことだ。鳴海先輩なら男同士、俺の気持ちもわかってくれると思ったのに」
 有島くんが恨めしげな溜息をつく。
 しかし鳴海先輩は肩を竦め、意に介した様子もなく応じていた。
「OBにそこまで口を挟む権限はない。意見の齟齬はそちらで擦り合わせてくれ」
「え、先輩も寄稿してくださるんだから、もう当事者みたいなもんじゃないですか」
 そう言った後、有島くんは何か思いついたようだ。すぐに私へと水を向けてきた。
「部長! 鳴海先輩も仮装に参加するようお願いしてもらうの、どうですか?」
 途端、先輩が弾かれたように有島くんを見る。
「馬鹿なことを言うな。なぜ俺まで仮装しなきゃならないんだ」
「毒を食らわば皿までって言いますし。そっちも一緒にやりましょうよ」
 にまっと笑った有島くんは尚も私を促してくる。
「部長からも是非。俺も道連れ……いや、仲間がいるなら頑張れそうですし! 何だったらアリス世界の花形、白うさぎさん役は鳴海先輩にお譲りしますんで!」
「誰がやるか!」
 鳴海先輩は即座に否定したけど、私は迂闊にもうさぎ耳を生やした先輩の姿を想像してしまい、あまりの可愛さに吹き出してしまった。
「雛子、お前も笑うな!」
 抗議の声が飛んでくる。でも、笑いは急に止められない。
 どうにか笑いを止めようと必死になって噛み殺していると、荒牧さんが心配そうに囁いてきた。
「い、いいんですか、部長。先輩にご迷惑じゃ……」
 もし絶対に迷惑だったとしたら、鳴海先輩はもっと別の言い方をしているはずだ。だから多分大丈夫。
 私としても仮装なんて想像するだけで楽しそうなことを、鳴海先輩とできたら素敵だと思う。
 そんなこと今までの文芸部ではそれこそありえなかった。
 そして先輩が在学していた頃だって、一度としてできなかったんだから。
「先輩、よかったら一緒にどうですか?」
 つい乗り気になった私は、便乗して尋ねてみることにした。
 すると先輩は容赦なく私を睨む。
「いいからお前は原稿に目を通せ。俺はその為にここに来たんだぞ」
「あっ、すみません……。すぐ読みます」
 すぐにいい返事は貰えないだろうと思っていた。でも諦め切れなかったから、時間を置いてから誘い直すことにする。いつだって先輩に頼み事をする場合、押し問答を繰り返してから、というのが基本だった。
 後々のやり取りを想像しながら私が再び原稿に目をやると、ぼそりと先輩の声がした。
「そんなに楽しそうな顔をするな。断りにくくなる」
 だって、楽しいんだからしょうがない。
 原稿の束の陰でこっそりにやにやする私に、荒牧さんがもう一度囁いてきた。
「やっぱり、鳴海先輩って優しい方なんですね」
「……うん」
 私は素直に頷いてしまうことにする。
 今の鳴海先輩を見たら、そんなふうに思ってくれる人も決して少なくはないはずだ。

 人柄はさておき、鳴海先輩の作風は在学中とあまり変わりがない。
 以前語っていたように、先輩が物語の中に描くのはたった一人の為の人生だった。それもご都合主義ではなく、オーバーな悲惨さでもなく、本当にどこかに存在していそうな物寂しい人生――テーマを『青春』と位置づけた今回の原稿においても、その点には全く変化がなかった。
 主人公は平凡な高校生で、彼には将来についてささやかな夢があった。しかし身内に不幸があり、彼は夢を追う為の進路を諦めなければならなくなる。クラスメイトから置いてけぼりを食らい、未来に希望を持てなくなる中、彼は周囲からの慰めや励ましの言葉に次第に傷ついていくようになる。
 暗く沈鬱な青春の物語は、それでも彼が一筋の光明として前向きな感情を得て、静かに胸を張りながら終わる。彼を支えたのは雑音に等しい無責任な慰めではなく、夢や希望に溢れていた過去の自分自身に対するプライドだった、という幕切れを、私は何とも言えない気持ちで迎えていた。
 作者と作品の主人公の境遇を重ね合わせて考えるのはそれほど意味のあることではないと思うし、先輩もこの物語に自分自身を描いてはいないだろう。だけどここに描かれているのが先輩の思う青春の風景であることは間違いない。孤高の人が誰に頼ることもなく、誰が助けてくれることもなく、自分自身で見つけるしかない一筋の光明。それは読む側にとっては寂しく、切ないストーリーだった。
 これも以前、先輩が打ち明けてくれた話だ。鳴海先輩は誰かに聞いてもらいたいことを物語にしていると言っていた。在学中からずっと貫き通しているこの作風自体、先輩が最も書きたいと望んでいるものに違いないのだろう。
 たった一人が背負う、他の誰のものでもない、決して明るいばかりでもない人生。
 それを先輩は、いつものように硬質で美しく、感性豊かな文章で書き上げていた。

「――鳴海先輩、ちょっといいですか?」
 原稿を読み終えた私がしばらく呆然としているうちに、先輩の元には有島くんと荒牧さんが並んで立っていた。二人とも部活動で書いてきた、自身の原稿を持参している。
「お時間あるようでしたら、俺の原稿見ていただけると嬉しいんですけど……」
「あ、私のもできたらお願いします。お暇だったらでいいので……」
 有島くんも荒牧さんも随分と鳴海先輩を慕っているようだ。それは二人が事前に先輩の作品を読んでいたからでもあるし、在校生だった頃の先輩のことを知らないからでもあるのかもしれない。二人がかつてのOBたちみたいに先輩を扱わないことが、私にはとても嬉しかった。
 ともあれ私が原稿を読んでいる間、鳴海先輩はやや手持ち無沙汰だったようだ。二人の言葉に曖昧に頷いた。
「手も空いているし、読んでみよう」
「ありがとうございます!」
 深々と頭を下げる後輩たちの原稿を、先輩はにこりともせず受け取った。
 その後、熱心に読み始めたようだ。時々眉を顰めたり、黙って考え込んだりしながらも、時間をかけてゆっくり読み込んでいた。
 しばらくしてから二人に対し、それぞれ気になった点や直すべきポイントなどを軽く説明し始めた。それを後輩たちもうんうんと頷きながら聞き入っている。二人とも素直に聞いているから、さながら教えを乞う生徒と先生のように映った。
「へえ、さすが先輩。何か着眼点からして違う感じですね」
「本当。言われるまで気づかない私も私だけど……」
 有島くんと荒牧さんに感心され、鳴海先輩は非常に居心地悪そうな顔をした。
「大した話はしていない。一意見として捉えてくれ」
「はいっ、大いに参考にします」
「先輩、本当にありがとうございました」
 感謝を伝えられた先輩はますます対応に困った様子で視線を泳がせていたけど、やがて、私がこっそり見ていたのに気づいたらしい。目が合うなり口早に言われた。
「部長、悪いがこのドーナツの箱を開けてくれ」
「構いませんけど、食べるんですか?」
 甘い物嫌いの先輩が珍しい、と思ったらそうではなかったようで、
「お前が開けないと後輩たちも食べられないだろう。こっちとしても無駄になる方が困る」
 ということだったから、私は慌てて差し入れのドーナツの箱を開封した。言われてみればもっともな意見で、今の今まで気がつかなかったのが恥ずかしい。
 後輩たちにドーナツを勧めると、有島くんも荒牧さんも口々にお礼を言いながら嬉しそうに食べ始めた。そのせいか部室の中は一時だけ静かになる。
 ただしその静寂は早々に、先輩が破ってしまったけど。
「読んだか」
 尋ねられたから、私はぎくしゃく顎を引いた。
「はい。でも、あの……上手く感想がまとまらなくて」
 何を言っていいのかわからなかった。
 美しい文章だと思った。よくまとまった展開だと思った。先輩らしい、誰にも介入できない誰かの人生を描いた物語だと思った。
 だけど――。
「どうした?」
 言葉に迷う私を、鳴海先輩は怪訝そうに見ている。昔、この部室にいた頃よりもずっと柔らかい顔つきをしている。私や後輩たちを気遣うそぶりも、部員と穏やかに言葉を交わす姿も、以前は見かけることがなかった。
 後輩たちは美味しそうにドーナツを食べている。二人ともお腹が空いていたのか、いいペースで箱の中のドーナツが消えていく。食べる度に先輩にお礼を言っている。それを先輩は心なしかほっとした面持ちで聞いている。無駄にならなくて済んだ、というようなことを口にしていて、先輩なりに差し入れには悩んだのかもしれないなと私は思う。
 今ここにある風景も、青春と呼ぶにふさわしいものに違いない。
 だからもし、この青春が、もう少し前に訪れていたら――鳴海先輩が文芸部にいた頃から実現していたなら、先輩の思い描く『青春』の風景は、この物語は、もっと違う形に落ち着いていたんじゃないだろうか。
 私にはそう思えてならなかった。
 今がとても穏やかで、優しい時間だからこそ、そう思わずにはいられなかった。
「……すみません、先輩。ちょっと時間を貰っていいですか」
 打ちのめされたような気分で私は尋ねた。
 鳴海先輩は不思議そうにはしていたけど、だからと言って強く疑問にも思わなかったようだ。すぐに言ってくれた。
「わかった。俺は締め切りに間に合いさえすればいい」
「ありがとうございます。何とか、まとめておきます」
 内心焦る私を見越したか、その後で先輩は私にもドーナツを勧めてきた。
「お前も一休みして食べるといい。どうせ甘いものなら際限なく入るだろう」
「際限なくはないですけど……いただきます」
 粉砂糖をまぶした甘いドーナツにかじりつきながら、私は思う。
 鳴海先輩には、もっと幸せな青春の風景を見ていて欲しい。
 今ならその願いはたやすく叶いそうだけど、でもそんなことを口にすれば、先輩の書きたいものにも干渉してしまうように思えた。だからどう伝えるべきか、そもそも伝えていいものなのか、時間をかけて考えたかった。
 私は今の先輩に、何を望んでいるんだろう。

 その日も部活を終えた後、私は先輩と一緒に帰った。
 一緒にと言っても駅までの短い距離ではあったけど、そうやって帰るのだって先輩が文芸部員だった頃はほとんどなかった。それでも何度か『帰るぞ』と一方的に告げられたことはあったものの、そういう場合、鳴海先輩は足早に先を行き、私が置いていかれないよう慌ててついていくという感じで、一緒に帰ったと表現するにはあまりにも物足りなかった。
 今頃になってようやく叶ってしまったのが、嬉しいような、これまで過ぎていってしまった時間が少しだけもったいないような。
「今日はすみませんでした。せっかく来てもらったのに」
 私は結局、先輩の作品に対してまともな感想を告げられなかった。歩きながら改めて詫びると、先輩は首を横に振る。
「気にするな。別に急がない」
 それだって昔は考えられなかった、とても優しい言葉だ。
 私は先輩の優しさを幸せだと思いつつ、だからこそ先輩にも、もっと幸せになってほしいと願ってしまう。その考えはただのお節介で、先輩はどんな物語を綴ろうとも自分自身は幸せだと思っているのかもしれないけど。
 歩きながら見上げた秋の夜空は、雲が重く垂れ込めて、星が全く見えなかった。唯一月のある辺りだけが、ぼんやりと冷たく光っている。
「週間天気予報によれば、二十二日の天気はどうも怪しいようだな」
 鳴海先輩も空を見ていたのだろうか。不意にそう言われて、私も気にしていただけにがっかりした。
 私の誕生日は次の日曜だった。もう一週間もない。
「雨が降ったら中止ですか?」
 問いかけると先輩は目の端でこちらを見る。
「延期だな。さすがに雨天でピクニックは無理だ」
 言い直してくれた心遣いには感謝したいけど、誕生日は私にとって特別だ。一年に一度きりの大切な日だ。私としては最悪ピクニックが延期になったとしても、二十二日は先輩と会いたかった。
「その場合でも、ちょっとでいいので会ってもらえませんか」
 私は食い下がった。
 こういう言い方をするとまるで自惚れのようかもしれないけど、十八歳になった私を誰より早く、鳴海先輩に見てもらいたかった。見せたら見せたで間違いなく『大して変わりない』と言われるだろうけど、それでもだ。
「天気の悪い日に出歩けば身体を冷やす。あまり感心しないな」
 鳴海先輩は一旦はそう言った。だけど私が見るからに落胆したせいか、あるいは先輩なりに惜しんでくれているのか、後から提案してくれた。
「一応、雨天の場合の対策も何か考えておいてやる」
「ありがとうございます、先輩!」
 すぐさま私が浮かれたからだろう。鳴海先輩もそこで、呆れたように笑んだ。
「十八になるといっても案外子供だな。俺もこうだったとは思いたくないが」
 確かに十八だったの頃の先輩は、今の私よりもずっと大人びていたような気がする。
 あの頃の鳴海先輩と、私はついに同い年になる。
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