menu

笑う甘党主義者(1)

 夢を見た。
 海里くんと、白玉だんごを作る夢を見た。
 二人がかりでこねた白玉を茹でながら、どうやって食べようか話をしていた。すると海里くんが氷白玉あずきにしたいと贅沢なことを言い出して、茹で上がった白玉を水に取って冷やす間、今度は二人でかき氷を作った。
 真新しいかき氷器は赤いアイスクリームスタンドをかたどった手動式で、私たちは代わりばんこにハンドルを回した。私も海里くんも甘い物が好きだから、毎日のおやつを生み出す為の作業は全く苦じゃなかった。むしろ出来上がりを楽しみにしながら、大はしゃぎで氷を削った。楽しい夢だった。

 私が忘れっぽいのか、それとも夢ってものが元々そういう性質なのかはわからない。
 ともかく私は、その日見た夢を、目覚めた直後は忘れている。

 今日だって、海里くんと白玉粉を混ぜて、伯父さん家の古い台所で鍋にぐらぐらと湯を沸かして、白玉だんごを茹でている間にようやく気づいた。
「のどかさん。この白玉、どうやって食べる?」
 海里くんのその聞き方には覚えがあって、それで初めて『あ、これ夢で見た』って思った。
 瞬間、難しいパズルが解けた時みたいにすっきりして、頭がクリアになる。
 だけど心はかえってもやもやする。夢と同じことが起きるなんて、やっぱり奇妙だ。普通じゃない。
「缶詰のあんこを買ってあるから、冷やしぜんざいでって思ってたんだけど」
 もやもやしつつも私が答えると、海里くんは日に焼けた顔で私を見下ろす。彼は生意気なことに、私より十センチも背が高かった。
「それじゃちょっと物足りないよ。氷白玉あずきにするのはどう?」
 海里くんはアーモンド形の目をきゅっと細め、薄い唇の両端を愉快そうに吊り上げ言った。笑う時、楽しい気分の時、彼はいつもこんな表情になる。
 私にとっては少し、懐かしい顔だった。
「氷、作ってあるの?」
「当然。俺とのどかさんの分なら余裕であるよ」
 悠々と冷蔵庫に歩み寄った海里くんは、芝居がかった動作で冷凍庫の引き出しを開ける。その中に四角い氷がぎっしり詰まっているのを私に見せた後、得意げに胸を張った。
「昨日のうちに作っておいた。あと、かき氷器も洗ってあるし」
「すごい。用意周到だね」
 誉めてあげると、海里くんは嬉しさを押し隠すように視線を外す。そのくせ口元はにやにやしながらこう言った。
「俺、こう見えても計画的な男だから。もっと盛大に感謝してくれてもいいんだよ」
「すぐ調子に乗るのがなあ……」
 そういう生意気なところはさておき、海里くんは甘い物に目がない。こうして毎日のおやつ作りを手伝ってくれるばかりか、より美味しく食べる為の努力や準備も惜しまない。高校生の男の子でここまで甘い物好きの子って珍しいのかもしれないけど、作る側としても美味しい美味しいと食べてもらえるのは嬉しいものだった。
 それに私だって甘い物が好きだから、二人でする毎日のおやつ作りが楽しくて仕方がなかった。一昨日は水ようかんを作ったし、昨日は葛きり、そして今日は白玉だんご。母仕込みのお菓子作りスキルを活かすいい機会だ。
「待ってて、今出すから」
 そう言って海里くんは流し台の下に屈み込むと、戸を開けてかき氷器を取り出す。
 私はそこでまた、夢の中のやり取りを思い出した。その上で海里くんの動作を落ち着かない気持ちで見守っていたけど、現われたアイスクリームスタンド型の、赤いかき氷器を見た瞬間、思わず口に出さずにはいられなかった。
「……夢で見たのと同じ」
 かき氷器を抱えた海里くんが、私の方を向いて瞬きをする。
「マジで? また?」
「うん、昨夜も見たんだ。やっぱりこれ、予知夢だよ」

 つるんとした白玉と缶詰のあんこをガラスの器に盛りつけて、お仏壇に供えた。
 ろうそくに火を着け、お線香も立てて、鉦を三回鳴らして手を合わせる。それから目を開けると、お仏壇の前に並んだ遺影の中、祖父は場違いなくらい不遜な笑みを浮かべていた。
 こうして見るとしみじみ、うちの祖父と海里くんはそっくりだと思う。こんがり日に焼けた顔とか、アーモンドみたいな形の目元とか、唇を吊り上げる笑い方とか。
 その後で祖父似の海里くんと居間のテーブルを囲んで座り、扇風機の風を浴びながら氷白玉あずきをいただいた。お仏壇に供えた分もお線香が消えたら下ろして食べるから、そっちにはかき氷を盛らなかった。
「でもじいちゃんなら、『何で俺の分にはかき氷ないんだ』って文句言いそう」
 海里くんがシロップのかかった氷の山をスプーンで崩しながら笑う。
 私もざらざらした甘い氷を口に運んで、口の中と頭をきんきんに冷やしてから頷いた。
「言いそう。だから私、そういう夢を見るんじゃないかって思って」
「じいちゃんが、のどかさんに夢を見せてる、ってこと?」
「うん」
 昨夜だけじゃなかった。
 私が伯父さんと伯母さんと海里くんの家に泊まりに来てからというもの、毎晩甘い物の夢を見ていた。
 一昨日は葛きりを作って食べる夢だったし、その前は確か水ようかん。更にその前は金つば、しかもご丁寧に伯父さん家の近所の和菓子屋のって指定までされてあった。それだけならいかにも甘党の私の見る夢らしいって納得するところなんだけど。
 そういう夢を見た次の日、私は必ず夢に見た甘い物を作って食べていた。昨日は葛きり、一昨日は水ようかん。金つばはまあ、その前の日から伯父さん家のお仏壇に上がってて、包装紙に包まれてるのも見ていたから和菓子屋まで一致するのもおかしくないのかもしれない。手作りおやつにしたって、目覚めた直後は忘れているとしても深層心理には刷り込まれていて、夢で見たから食べたくなって作った、という解釈もできなくはない。
 だけどそれにしては何日も続きすぎだと思っていた折も折、今日もまた夢が本当になった。
 しかもただの白玉じゃなくて、氷白玉あずきという海里くんの思いつきまでぴったり一致した。
 それどころか、かき氷器の色と形まで夢とそっくり同じだった。伯父さんの家で今年買ったばかりの新品らしく、当然、私にとっては今日初めて見るものだった。ただの偶然だとは、私にはもう思えない。
「すごくない? こっち来てからずっと当たってるんだよ。予知夢だよ」
 氷とあずきを交互に掬いながら私は語る。
「これはもう、どう考えてもおじいちゃんからの夢のお告げだと思う。きっとおじいちゃんは、私に何か伝えたいことがあるんだよ。間違いない!」
 興奮する私を、海里くんは白玉を頬張りながらどことなく疑わしげに見る。
「お告げってどんな?」
「さあ。今んとこ、おやつの夢しか見てないし」
「それだけでお告げとか言い切っちゃうんだ。のどかさん、かぶれてるね」
「かぶれてるって……何によ」
 いとこ同士とは言え、年上相手に遠慮のない物言いをしやがる。
 私がむっとしたのを見て、海里くんは軽く首を竦めた。
「仮に予知夢だとしてもだよ。だからってじいちゃんパワーだとは思えないんだけどな」
「おじいちゃんしかいないよ、こんなに甘い物の夢ばっか見るなら」
「のどかさん自身がエスパーって可能性は? 普通、そっちを先に思い当たるよ」
「それなら何で今頃? って感じだし。今まではそういうの全然なかったんだから」
 私の十九年の人生は、それはもう絵に描いたように平々凡々としていて、オカルト沙汰とはまるで無縁だった。幽霊なんて見たこともないし、超能力なんて漫画か、酔っ払いの与太話くらいでしかお目にかかったことがない。だからこの予知夢のことも、最初はただの偶然だと思っていた。
 それが今年の夏休み、こっちに遊びに来てからずっと続いているんだから、オカルトとは無縁の私もそろそろ超常現象を疑いたくなってきたわけだ。
 次の日のおやつばかり予知できる能力と来たら、それは無類の甘党だった祖父のご加護に違いない。それでなくてもうちの祖父は、何かそういうことをやらかしそうな可能性に満ちた男だった。伯父さん家にはちょうど祖父のいるお仏壇もあるし、もうじきお盆もやってくる。となれば、お盆を前にいち早く里帰りしてきた祖父が、眠る私に予知夢を見せているって考えるのが自然だと思うんだけど。
「どっちにしろ、特に役立たない予知だからな」
 海里くんはこの件に関しては冷静と言うか、むしろ冷めていた。鼻で笑うようにして、
「俺はのどかさんが食いしん坊だからそういう夢見るんだって思うよ」
 と言うから、私は心外さに鼻白んだ。
「うら若き乙女に対して何たる物言いか!」
「事実だろ。毎日毎日、おやつに対してはこんなにも熱心なんだから」
 君がそれを言いますか。食いしん坊なのも甘党なのもお互い様なのに、つくづく生意気な子だ。
「海里くんは、私のこと全っ然言えないと思いまーす」
「いいや。俺は見てないから、そんな夢」
 きっぱりと言い切る海里くんは、どうやら私と同じ目にはあっていないらしい。

 そもそも私が伯父さん家に泊まりに来たのは、私の家のエアコンが壊れるという大事件が発端だった。
 八月の酷暑の最中、家に冷房なしじゃ夏休みは乗り切れないし勉強も捗らない。うちの両親は共働きで忙しく、いつも夜遅くまで家を空けているから、エアコンのない深刻さがいまいちわからないらしい。そのせいで新品購入よりも数日かかる修理を選ぶという最悪の判断を下した。
 エアコンの修理の間、私は灼熱地獄のように蒸し暑い我が家で寝起きしなきゃいけないわけで、絶望に打ちひしがれ十九で散るかもしれない我が身の儚さをひとしきり嘆いていたら、母が呆れたように言った。
『じゃあ、のどかだけでも兄さんとこ行きなさい。ついでにおじいちゃんたちのお墓参りもしてきてよ』
 伯父さん家は山間にある小さな町に建っていて、周りは緑の山々ばかりで涼しげだし、元々は祖父が建てた古い日本家屋なんだけど、風の通りがよくて意外に過ごしやすい。伯父さん一家も私を快く預かってくれて、私は夏休みをこの田舎町で送ることになった。
 涼しさの代わりに、他には何にもないような田舎だった。買い物は不便だし、遊びに行く先もほとんどない。でも不思議と退屈はしなかった。伯父さんと伯母さんも共働きなので、日中は海里くんと二人で過ごしているからだろう。一緒にお墓参りも行ったし、一緒におやつ作ったり食べたりしているし、毎日の夕飯の買い出しも二人で行く。海里くんは三つも年下のくせにちょいちょい生意気だけど、昔から弟みたいなものだと思っていたし、年々祖父に似てきたせいか何とも憎めない奴で、二人で過ごすのもなかなか楽しかった。
 そういうふうに楽しくも平和な日々が続いているせいなんだろうか。私は次第にあの甘い物の夢が気になってしょうがなくなってきた。もしかしたら何か、夢を見る原因になっているものがあるのかもしれないなんて、非現実的な考えを持つようになってきた。
 平和な田舎町も結構なことだけど、ちょっとくらいは刺激と言うか、びっくりする出来事が欲しい。夏休み、しかもお盆近くと言えば少年少女がほんの少しの不思議とめぐり会う季節と相場が決まっているのだ。十九歳の女子大生を少女枠に含めていいかはこの際さておくとして。
 そこに起こったこの度のごくささやかな超常現象は、謎めき具合も夏っぽさという観点から見てもまさにぴったりの事件だった。ついに私にも少しの不思議とめぐり会う機会がやってきたのかもしれない!

「……そう、これは事件なんだよ。どう考えても普通じゃない」
「事件ってほど大げさなもんかな。確かに偶然にしちゃ、続きすぎだと思うけど」
 色めき立つ私に、海里くんはそう言った。この時、海里くんは氷白玉あずきをあらかた片づけていて、最後の白玉をスプーンでひょいと口に運んだ後、かき氷の溶けた水分まできれいに飲み干した。
 それから深く息をつく。
「けど予知夢を見て、それでどうなるって? 単に次の日のおやつを当てられるだけじゃ意味もない」
 彼の、だぶついたタンクトップの胸元が、扇風機の風に吹かれてばたばた揺れている。甘い物をいくら食べても太らないところまで祖父にそっくりな海里くん。羨ましすぎてむかつくし、不思議に憧れる私の推測をことごとく潰していくところも腹立たしい。
「それこそ、さっきのどかさんが言ったみたいにさ。夢の中に、じいちゃんからのありがたいメッセージでも含まれてるっていうんなら別だけど。そういうのがないんじゃ、やっぱりのどかさんの甘党パワーだとしか思えない」
 そして悔しいけど、彼の発言にも一理あると言えばある。
 予知夢でこう、これから起こる危機とか、祖父からの頼み事でも教えてくれるのならそれっぽいけど、本当に海里くんの言う通り、明日のおやつがわかるだけだからね。自分で言っといてなんだけど、事件というには日常的だし、超常現象的なロマンにも乏しい。
「おじいちゃんからのメッセージかあ……」
 それで私はスプーンを、探偵のパイプよろしく咥えながら考える。
 今日まで見続けた甘い物の夢の中、隠された訴えはないものかと――だけど昨夜ならまだしも一昨日、その前の夢の内容がはっきりくっきり思い出せるはずもなく。ちゃんと覚えているのは現実と一致したおやつのメニューと、それを海里くんと一緒に食べたり作ったりする、映画のフィルムにしたらほんの数十コマくらいの情景だけだった。
「じいちゃんの言いたいことなんてせいぜい、『仏前に俺の好物をもっと供えろ!』ってとこだろ」
 考え込む私の代わりに、海里くんが言った。
 海里くんのする祖父の物真似は激似だった。顔のつくりも笑い方も甘党なところも、孫の私がしみじみ思うくらい本当によく似ていた。伯父さん伯母さんが半ば本気で、おじいちゃんの生まれ変わりじゃないかって言い出すほどだ。
 もっとも祖父が亡くなったのは二年くらい前の話なので、生まれ変わりという可能性があるはずはない。単なる遺伝、血筋ってやつなんだろう。
 でもそれなら、甘党の人らしい夢を見る役割は海里くんの方こそふさわしい気がするんだけどな。私は祖父には似てないのに、何で祖父は私に夢を見させるんだろう、とも思う。
 現状、祖父のせいって決まったわけでもない。他に無類の甘党主義者なんて、私と海里くん以外には見当たらないからそう思うだけだ。そして私にとっての祖父は、何となくそういうことをしそうな人、ってイメージがあるから。それだけだった。根拠としてははなはだ貧弱だ。
「おじいちゃんがそれだけの為に、私に予知夢なんて見せるかなあ」
「見せるね。じいちゃんならやりかねない」
「ですよねー……。おじいちゃんだもんね」
「ぶっちゃけそれ以前に俺は、のどかさんの考えすぎ、かぶれすぎだと思うけど」
 海里くんは頬杖をつき、考え込む私に宥めるような笑顔を向ける。
「のどかさんがどうしても超常現象にしたいって言うんならさ、じいちゃんが仏壇に供えて欲しいメニューを送ってきてるとでも思っとけばいいんじゃないの。俺はじいちゃんなら、そのくらいくだらないことしかしないと思うね」
 歯に衣着せぬ言いようだけど、祖父に関してはそう言う人も少なくないのもわかっている。
 うちの祖父は生前、よく言えば明朗快活、悪く言えば少々やんちゃな性格の主だった。老いて尚周囲の人間をからかい、常に冗談か本気かわからないような発言を繰り返していた。その一環として祖父は私にも奇妙な話をしてくれたものだった。
 あのアーモンド形の目を細め、唇の両端を吊り上げて、日焼けした皺だらけの顔をくしゃくしゃにしながら祖父は言った。
 ――おじいちゃんはな、未来がわかるんだぞ。こう、頭にひらめくみたいにな。
 祖父のする予知は、それこそ今日のおやつや夕飯の献立、あるいは来客者を当てる程度のもので、この歳になってしまえばもしかするとタネも仕掛けもあったのではと思わずにはいられない代物だった。だけど当時の私には祖父が本物のエスパーに見えたし、次々と予知が的中していくさまは子供心に鮮烈な印象を残した。
 だから私はこの度の一連の予知夢を祖父と関連づけてしまう。もしかすると、祖父は正真正銘本物のエスパーだったんじゃないかって――今となっては確かめようもないからこそ、よりそう思うのかもしれない。
 一方で、親戚筋からの祖父の評判はそれほどでもなかった。
 うちの母や伯父は、純粋無垢な幼少の頃の私が祖父の言葉を鵜呑みにしているのを見て、
『またおじいちゃんがのどかを担いでるな……』
 としか思わなかったらしい。
 海里くんもどちらかと言えば祖父の言動には懐疑的だし、祖父によく似ている割に、私ほどは懐いていなかったようだ。
「のどかさんは本当、じいちゃんが好きだよな」
 空になったガラスの器を見下ろしながら、海里くんは呟く。
「面白い人だったじゃん。一緒にいて退屈しないって言うかさ」
 私が応じると、海里くんは私を目の端で見て、いくらか不満げに言ってきた。
「俺はじいちゃんが、のどかさんを散々泣かせてきたのを見てきてるからさ……」
「海里くん、まるで私が悪い男に泣かされてたみたいな言い方するね」
「実際悪い男だっただろ。美化しすぎなんだよ、のどかさんは」
 冗談半分とは言え、故人、しかも実の祖父にその言い方はどうだろう。
 それに泣かされてきたといっても、せいぜい子供の頃に本気で怖い話をされたとか、チャンバラごっこでこてんぱんに負かされたとか、そういう次元の話だ。そんな時、海里くんは本気で祖父を怒っていたけど、私からすれば祖父のやんちゃぶりも大好きだったし、こうして振り返る分には純粋にいい思い出となっていた。
「もう会えないから、いい思い出ばかりに感じるってのはあるかもね」
 私はしんみりした気分で呟く。皆が何と言おうと、私にとっての祖父はやはり素敵な人だった。
 しばらくの間、海里くんは何か言いたそうに私を見つめていた。
 でもその後、思いついたことでもあるように急に立ち上がる。そして思い出の中の祖父によく似た笑い方で私を見下ろした。
「仏壇の白玉、早い者勝ちでいい?」
「どうぞ。海里くんが食べていいよ」
 元々譲る気でいたから、私は彼にあげることにした。
 それで海里くんは居間のすぐ横にある仏間に駆け込むと、お仏壇の前で三回鉦を鳴らしてから白玉あずきの器を下ろした。
 私も食べ終えていたので、海里くんにかき氷を作ってあげようと席を立つ。
 夢の話はまだもやもやと心のうちにあったけど、考えてもわからないんじゃしょうがない。また見ることがあったら、今度はもう少し真相に近づけるかもしれない。そう思うように努めた。

 そうしたら、またその晩も夢を見た。
 海里くんと買い物に出たついでに、田舎町らしい佇まいの駄菓子屋さんでアイスを買った。
 私は真ん中で割れるソーダのアイスを選び、海里くんはナッツを散りばめたチョコレートがけの棒アイスにした。夏のからからに乾いた道を、二人でアイスを食べながら歩いた。途中、海里くんが一口ちょうだいと言ったから、私はソーダアイスを彼の口元へと差し出した。
 その時、海里くんはもう片方の手に、金つばの美味しいあの駄菓子屋さんの紙袋を提げていた。
 そういう、楽しい夢を見た。
top