Tiny garden

秋の日に訪れる(2)

 俺達のテーブルに、耐熱ガラスの透明なティーポットが二つ運ばれてきた。
 ティーポットは湯気でうっすら曇っていて、既にお茶が入った状態のようだ。それぞれ違う色味をした液体が中で揺れていた。

「こちらがカモミールとリンデンのブレンド、こちらはハイビスカスとローズヒップのブレンドでございます」
 運んできた奥様がそう説明した。
 俺の前に置かれたのは薄めのお茶という見た目のポットで、これがカモミールとリンデンのブレンドティーらしい。
 カモミールはわかるが、リンデン――菩提樹がハーブの一種だということも、お茶として飲むことができるということも初めて知った。どんな味がするのか、期待半分不安半分と言ったところだ。
 奥様はポットと同じく透明なガラスのカップ、それに小さなハニーポットもテーブルに置くと、空のトレイを抱えて優雅に一礼した。
「ごゆっくりどうぞ」
 俺と園田も会釈を返そうとしたが、それよりも早く小野口課長が言った。
「僕も一旦席外そうかな。仲人要る? 要らないよね?」
 まさかの仲人放棄に、園田が焦って引き止める。
「え、行っちゃうんですか課長。い、一応これってお見合いですよね?」
「僕がいない方が会話弾みそうだし」
 小野口課長は確信的な笑い方をした。俺をちらりと見てから、不安そうな園田には優しい笑みを浮かべて告げる。
「もし助けが必要になったら呼んで。駆けつけるから」
 それから奥様と二人で仲良くカウンターへ戻っていく。見送る俺達の方は一切振り返らなかった。
 二人きりになったテーブルで、園田は俺に向かって声を潜める。
「いきなり、お見合いっぽさ半減してない?」
 俺と二人で何か困ることでもあるのか。俺は笑って応じた。
「いや、これは『あとは若い二人で』ってやつだ。それがちょっと早まっただけだろ」
 正直に言えば俺も、小野口課長がいない方がやりやすい。きっと向こうもそれをわかった上で気を利かせてくれたのだろう。ありがたいことだ。
 ひとまずハーブティーを味わおうと、俺はティーポットを取り透明なカップに注いだ。
 たちまち湯気と共にいい香りが立ち昇ってくる。入店した時に果物のような爽やかで甘い香りが立ち込めていたが、それとよく似た香りだと思う。結構好みかもしれない。

 園田も俺に続いて、ティーポットをそっと持ち上げた。
 彼女のはハイビスカスとローズヒップのブレンドだそうだが、ハイビスカスの花からそのまま煮出したみたいに深く濃く赤みがかったお茶だった。
「じゃあ、いただきます」
 彼女は行儀よくそう言って、両手で可愛くカップを持ち上げた。一口飲むなり瞬きをして、戸惑っているのがありありとわかった。一体どんな味だったのだろう。
 すぐに園田は添えられてきたハニーポットに手を伸ばし、小さな匙でティーカップに蜂蜜を足した。どうやら甘みが足りなかったようだが、指先で匙をつまんでカップに蜂蜜を垂らし、細く糸を引きながら落ちていく蜜を伏し目がちに見つめる彼女は、少し色っぽくてどきっとした。
 もっとも本人は俺に視線にも気づかず、蜂蜜入りのハーブティを仕切り直すように一口飲んで、ようやく満足げな笑みを浮かべる。

 よからぬ妄想に傾きかけた心を立て直そうと、俺もカップを持ち上げてハーブティーを味わう。
 もしかしたら口に合わないかもしれないという不安があったが、杞憂だったようだ。こちらは癖もなく上品な味わいで、ほのかな甘みもあり、とても飲みやすいお茶だった。何より香りがいい。
「そっちはどんな味?」
 不意に園田の声がして、俺は視線をそちらへ向ける。
 彼女は自分のカップを置き、好奇心に輝く目で俺を見つめていた。
「飲んでみるか?」
 引かれるかと思いつつ聞き返せば、意外にも彼女は表情を明るくする。
「え、いいの?」
「いいよ。口で説明するより、飲んでもらった方が早い」
 俺はそう言って飲みさしのカップを差し出した。
 それを園田は、カウンターにいる小野口課長ご夫妻を一度横目で窺い、こちらを見ていないことを確認してから受け取った。代わりに俺に自分のカップを手渡してくれたので、俺もありがたくそれを手に取る。
 園田はカップ両手で持って口をつけ、こくんと一口飲んでから、今度はすぐに微笑んだ。
「ふうん。ほんのり甘くて美味しいね」
 そして飲んだ後、卓上の紙ナプキンを一枚取り、カップの口をさっと拭いた。先に拭かないで後からそうするところが園田らしいと思う。
 俺ももちろんカップを拭いたりせず、そのまま飲んだ。赤ワインみたいな色をしたハイビスカスとローズヒップのブレンドティーは、まるで目が覚めるような強い酸味が特徴的で、飲んだ瞬間素直にびっくりした。園田が蜂蜜を入れておいてくれなかったらもっと驚かされていたかもしれない。
「……思ったより酸っぱい。と言うか、お茶って感じがしないな」
「だよね。果物の温かいジュースみたい」
 彼女の例えは的確だった。確かに酸味の強いフルーツジュースをそのまま温めたような味だ。
 俺が納得していると、園田は首を傾げてみせる。
「でもカモミールはともかく、リンデンって何だろう」
「菩提樹だろ」
 即答する俺に彼女が目を瞠る。
「えっ、何でわかるの?」
「リンデンバウムって言うじゃないか。シューベルトの曲にもある」
「全然知らない。安井さん、博識だね」
 園田に褒められるのは満更でもないが、別に博識なわけではなく、両親の英才教育の賜物だった。

 うちの両親は俺達三兄弟をクラシック漬けにしたかったようで、子供の頃は何かというとレコードを聴かされていた。
 クラシックやジャズが好きで、それ以外の音楽は趣味が悪いと公言して憚らなかった俺の父母だが、その英才教育はどういうわけか兄弟揃って全く身を結ばなかった。それどころか現在では両親の方が、弟の嫁さんに合わせてアイドル曲を好んで聴く始末だ。
 要は『音楽に貴賎なし』ということなのかもしれない。

「クラシックとかもよく聴くの?」
 交換したカップをお互いに返したところで、園田が俺に尋ねてきた。
 俺は戻ってきたカップに早速口をつけ、込み上げてくる笑いをとっさに隠した。いかにもお見合いみたいな会話だと思ったら、なぜかおかしかった。
 いや、これを口火としてお見合いらしい会話を弾ませるのがいいか。そう思い、俺はカップを置いてから彼女に笑んだ。
「何か今の質問、ちょっとお見合いっぽいな。『ご趣味は?』って感じ」
「そ、そうかな……。別に意識した質問じゃなかったんだけど」
 園田は急に照れたように首を竦める。
 その仕種を存分に眺めながら、俺は問いに答えた。
「自分では聴かない。親がレコードを集めてて、実家にいっぱいある」
「そうなんだ。集める人はすっごい集めてるって言うよね、レコード」
「すごいよ、実家の一部屋がレコード部屋になってる。棚という棚にみっしり詰め込んでて。お蔭で俺は兄貴が進学して家を出るまで、一人部屋を貰えなかったんだ。あの部屋さえ片づいてれば揉めなかったのに」

 どこの家でも長男は優遇されるもので、末っ子は甘やかされるものだ。
 そして真ん中の子が一番不遇だ。小さな頃はわがままな弟とセット扱いだったし、そのせいで社会人になってまで弟の面倒を見る羽目になったし、その弟が結婚した途端に両親からは『お兄ちゃんも翔もお嫁さん貰ったのにお前はまだか大丈夫か』みたいに言われるようになるわけだ。次男でよかったことなんて、思い返せば特にない。
 園田をうちの実家に連れていったら、両親も満足するしほっとするだろうと思う。嫁にするには申し分ない相手だし、園田の性格なら煩型揃いの安井家にもあっさり溶け込めるはずだ。早いとこ紹介して、心配性すぎる面々を黙らせたい。

「それって何歳までの話?」
 俺にとって理想の嫁である園田は、屈託なく質問を重ねてくる。こういう他愛ない会話でも楽しそうにしてくれるところがまたいい。
 そして俺も、園田となら他愛ない会話が楽しくて仕方がない。
「高一。それまで弟と同じ部屋で、しかも二段ベッドで寝てたんだよ。ありえないだろ? 弟は寝るのも早いし、夜更かししようものなら文句言ってくるからな。最悪だった」
「楽しそうでいいと思うけどなあ。きょうだいと同じ部屋なんて」
 彼女は歳の離れたお姉さんの話をする時だけ、甘えん坊の妹みたいな顔をする。
「私はずっと一人部屋だったからつまらなかったよ。一緒の部屋とか二段ベッドとか憧れる」
 ただきょうだいに関する愚痴だけは共感してもらえないようだ。俺はぎょっとして言い返した。
「冗談だろ? 六畳の部屋を弟とシェアしてたんだぞ」
「六畳なら二段ベッドと机二つ、ぎりぎり置けるんじゃない?」
「置ければいいってものじゃない。窮屈で息が詰まるし、友達も迂闊に呼べない」
「そんなに窮屈かな。友達呼ぶ日が被ったら、居間にいてもらうとかもできるでしょ」
 園田は知らないからそんなことが言えるんだろう。

 うちの弟と来たら同居人としては最悪の部類に入る男だ。
 小さな頃から俺の机の引き出しを勝手に開け、本棚を漁り、背が伸びてくるとクローゼットから人の服を拝借して着たまま遊びに出かける。
 俺がクラスの女子から手紙を貰って帰ってきた日、こっそり引き出しの奥に隠しておいたそれを引っ張り出して読まれた時にはさすがにぶん殴ろうかと思った。兄貴が止めに入り、弟が泣いたせいで何となくなあなあにされてしまったが――思い出したら今でもちょっとむかついてきた。

 蘇る記憶を苦々しく思っていると、園田がそこでからかうような笑みを浮かべた。
「あ。それって『友達』じゃなくて、彼女を呼べなかったってことじゃないの?」
 ぎくりとしたのは、別に心当たりがあったからではない。
 園田にそんなことを言われるなんて思ってもみなかったからだ。
「実家にいる頃は彼女なんていなかったよ」
 とりあえず澄まして答えると、園田は驚いたように声を上げた。
「へえ、意外。高校時代までは、ってことだよね?」
「そう。昔は女なんて訳わからん、男同士でいる方が気も休まるし楽しいと思ってた」
「安井さんにそんな純情な頃があったなんて。ものすごく意外すぎて想像できないよ」
 意外だろうか。実家暮らしの高校生はいろいろと気を遣う事情があり、進学して家を出て一人暮らしを始めた途端にいろいろ弾ける、なんて掃いて捨てるほどよくある話だ。
 にしても、園田は俺の昔の彼女の話なんて聞いても平気なんだろうか。
 俺は園田の昔の恋なんて、知りたくもないのにな。
「昔の安井さんに会ってみたかったな。もしかしたらすごく格好よかったんじゃないかな」
 人の気も知らず、園田は無邪気にそんなことを言う。
 俺は否定しようとして、しかし思い直してやめた。
 いつからか人目を気にして、見栄を張り、格好つけることばかり上手くなった。そして三十になった今、そのやり方では何も手に入らないということに今更気づいて、必死になって園田を追い回している俺は、もしかしたらこれまでの人生で一番格好悪いのかもしれなかった。
 それでも、園田が手に入ればいいと思っている。園田もそんな俺のところへ戻ってきてくれた。だからいい。
 単純さだけは昔と同じだ。男なんてそんなものだ。
「……それは、今の俺に対する駄目出しか何かか?」
 そう聞き返すと、そんなつもりはなかったのか園田があたふたし始めた。
「違うよ。女の子に及び腰な安井さんって想像つかないから、見てみたかったって思って」
「何だよ物珍しそうにして。誰だって最初のうちは及び腰になるもんだろ。まして、男友達といるよりも気が休まって、その上一緒にいて楽しい女の子なんてなかなかいないからな」
 何だかんだで今でも俺は、男同士の付き合いに気楽さを覚えることがよくある。
 石田や霧島と一緒にいるのは楽しいし、気を遣わなくて済むのがいい。
 だがあいつらは友情と恋愛を秤にかけたら迷わず恋愛を選ぶような男どもだし、もちろん俺だってそうだ。明るくて、愛嬌があって、時々ぶつかったり悲しませたりもするが二人でそれを乗り越えていけるような女の子が傍にいてくれたら――手のひらを返すように恋愛を選んで、石田と霧島に突っ込まれまくることだろう。

 気がつくと、園田が考え込むような顔をしていた。
 彼女も何か思うところがあるのだろうか。自分にとって一番居心地のいい相手は誰か、一緒にいたい相手は誰かと考えをめぐらせているのかもしれない。答えなんてわかりきっているくせに。
 俺は園田の背を押してやろうと、言った。
「園田と一緒にいると、どきどきする」
 彼女がはっと顔を上げた。
「急に脈絡ない変なこと言ってくるし、怒ったかと思えば次の瞬間には笑ってたりするし、ちょっとしたことで照れてすぐ赤くなるし、そういうのが可愛くて」
 そう続けたら、園田はわかりやすく拗ねて唇を尖らせた。明らかに不本意そうだ。
 でもそういうところが、俺は好きだ。
「それでいて、傍にいるとほっとする。園田は何でも面白がってくれるし、俺が無様なところを見せたって笑ってくれる。俺も、園田の前では見栄を張らなくていいんだって思うようになった。だからできれば、早いうちに結婚したい」
 俺にはもうためらう理由もなかった。
 この先の人生には園田が必要だ。こうして昔みたいに一緒にいられるようにもなったのだから、俺達はこの先また何が起ころうとも必ず乗り越えられるはずだった。
 ただ、園田はまだ迷っているようだ。
 何を迷っているのかはわからない。俺との結婚そのものか、この場で答えを出すことか、結婚に踏み切るのはまだ早いと思っているのか。でも園田だって二十八歳、結婚に踏み切るのに早すぎるということもないだろうし、相手が俺なら何を迷うことがあるのか。全てにおいて相性がいいこともも趣味が合うことも十分わかっているはずなのにな。
 俺が黙って園田の返事を待っていると、やがて彼女が口を開いた。
「あの――」
 らしくもなく思い詰めたような顔だった。
 そんなに深刻な顔をする問題でもないのに、園田は散々考えてもなお答えが出ない様子で苦しそうにさえ見えた。

 そうやって考えて考えすぎた結果、『寂しい』なんてメールを俺に送ってその後で自己嫌悪に雁字搦めになって、どうしようもなくなったんじゃないのか。
 俺は身構えていた。園田の言葉を待って、その内容がどんなものであれ俺は俺で自分なりに彼女を口説き落として、こちらへ引き寄せてやろうと思っていた。

 そこへ、
「失礼します」
 頭上で声がして初めて、俺はテーブルの傍らに小野口課長の奥様が立っていたことに気づいた。
「よろしければハーブティと一緒に、ケーキはいかがですか?」
 にこやかに微笑みかけられ、俺は黙って園田の方を見る。
 園田も気まずげに俺を見ていたが、やがて気まずいなりにちょっと笑んだ。
「ええと……いただいちゃう?」
「そうしよう。せっかくだから」
 俺は即座に頷いた。
 長々と考え込んで答えが出せずに思い詰めるよりも、ケーキでも食べて気分転換する方がよほど有意義だ。
 そして気分が変わったら、ぐだぐだ悩んだりしないで直感で答えを出すといい。

 飲み物に合うケーキはどれですかと尋ねると、奥様は俺にはレアチーズケーキを、園田にはパウンドケーキを勧めてくれた。
 ケーキの皿を運んできた奥様はそれを俺達のテーブルに並べた後、
「よろしければお茶のお替わりもお持ちしますからね」
 と言い残してカウンターへ戻っていく。
 カウンターで奥様を出迎える小野口課長はこちらが面食らうほど相好を崩していて、奥様もそんな課長に微笑みかけながら別のお菓子を差し出している。評判通りの仲睦まじさが羨ましいやら、負けたくないやらだ。
「美男美女のカップルだよね」
 園田がそっと囁きかけてきたので、俺は頷いてから聞き返す。
「憧れる?」
「そりゃまあ……」
 こちらを向いた園田は、一転して微妙な顔つきで答えた。当たり前だと言いたげな一方で、迷いがまだ降りきれていない様子でもあった。
「結婚って、素敵なものだとは思うんだよね」
 彼女の呟きを、俺は全力で肯定する。
「きっと楽しいよ。幸せにもなれると思う」
「うん。でも結婚するとなると、ずっと一緒に暮らすわけじゃない」
「それも楽しいに決まってる。朝、目を覚ましてから夜に眠りに就くまでずっと一緒だ。俺はお前と、一刻も早くそういう生活がしたい」
 俺は早速レアチーズケーキを食べ始めながら、結婚生活の夢を語って聞かせた。

 寝ても覚めても一日中彼女と一緒にいられる生活なんてこの上なく幸せに決まっている。一人暮らしにはもう飽き飽きしていたし、そもそも俺はずっと前からそうしたかった。合鍵だって作ったし弟の荷物も送り届けた。そういう生活をするに当たって、障害になるものは全て取り除いたつもりだった。最後の最後で俺を阻んだ見栄とプライドも、もう捨てた。
 残っているのは園田だけだ。

 園田は困ったように俺を見た後で、急にもじもじし始めた。
「普通に照れるって言うか、何か恥ずかしいんだけど……」
 その言葉に俺は驚いた。
 思ったよりも悪くない反応のもあるが、結婚に対して示す懸念がまずそれだとは。
「もしかして、園田が躊躇してる理由ってそれだけ?」
「それだけって言うけど、最もたる理由じゃない。いきなり結婚なんてハードル高いよ」
 園田はもっともらしい口調で俺に反論してくる。
 お前は婚活しようとしてたんじゃなかったのか――というツッコミはもはや無意味だろうからやめておくとして、俺と一緒に生活ならいくらでもイメージできるだろうに。何度も彼女の部屋に泊めてもらった。ああいう過ごし方を毎日すると思えばいいだけだ。今更恥ずかしがるようなことでもない。
 だから、それだけがためらっている理由だというなら話は簡単だ。
「もしもそういうのに慣れたら、結婚してもいいってことか?」
 俺が確認すると、彼女はぎこちなく顎を引いてみせた。
「そう、かも。だから、もっと時間をかけて、慣れていけたらなって」
 言質は取った。
 すかさず俺は、園田に提案した。
「じゃあ、結婚の前に同棲しようか」
 そういうのもありか、くらいの軽い選択肢のつもりだったが、口にしたらこれ以上ない名案に思えてきた。
「いいと思わないか? 結婚生活の練習になるし俺も楽しい。一石二鳥だ」
 ただ、園田の反応は予想通りだった。
 衝撃のあまり面食らったかと思えば急に顔を赤くして、口をぱくぱく動かしても声が追いつかないのか、かすれた声でようやく言った。
「ど、同棲って……!」

 我ながら素晴らしいアイディアだと思う。結婚生活のリハーサルをしながら二人きりの甘い日々を楽しめるのだから。俺は園田と一緒にいられるし、園田は俺との生活に慣れることができる。お互いの利害も一致するしいいことずくめだ。
 何だったら今日からでもいい。このまま店を出たら俺の部屋に来てくれても。
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