Tiny garden

写真には収めきれない (3)

 披露宴自体はつつがなく進行し、そして幸せな雰囲気のまま終了した。

 俺の歌もいつも通りの出来で、ささやかながら式に花を添えることができたようだ。
 披露宴が終わり、退場する参列者を見送る新郎新婦に俺も挨拶をしようとすると、霧島の方が先手を打つように声をかけてきた。
「先輩、今日はありがとうございました。いい歌を聴かせていただけて、感無量でした」
 タキシード姿の霧島がそう言って、こちらに握手を求めてきた。式の後の高揚感からか頬は赤らんでおり、眼鏡の奥の目が潤んでいるようにも見えた。
 普段は生意気なばかりの後輩から感謝の意を向けられ、俺はいささか面食らった。
 すると霧島の隣に立っていた花嫁が、まるでフォローするように、
「本当に素敵なお歌でした!」
 と言葉を添えてきたので、俺も空気を読んで霧島に握手を返した。
「こちらこそ、いい式に参列できてよかったよ。お二人の門出を歌で祝福できたなら幸いだ」
 柄にもなく真面目なことを言っても霧島は笑ったりせず、大きく何度も頷いてくれた。
 普段の俺達がどんな調子で接しているかを知る奴には、今のやり取りは何だかしゃちほこばった会話に聞こえるだろう。
 だが自身の結婚式ともなれば霧島だって素直にも真面目にもなる。社会人は結婚してようやく一人前だ、などと黴の生えた意見を持ち上げたがる人々もいるが、花婿として式を立派に務め上げた霧島を見ていると一理あると思えてくるから奇妙なものだ。
 だからと言って俺がまだ半人前だとは思いたくないが。
 霧島を祝いつつも、確実に置いていかれた気持ちにはなった。

 つつがなくとは言ったが、一つだけ驚いた出来事があった。
 披露宴の後、折を見て式場から抜け出そうとした俺は、なぜか待ち構えていた秘書課のお嬢さん方に囲まれた。
「安井課長、さっきの歌すごくよかったです!」
「格好よかったです、もっと聴きたかったくらいです!」
「あの、もしよければこの後、私達と二次会しませんか?」
 三人とも園田の後輩で、同じ総務部として見知った顔でもあった。だが口々に声をかけられ、二次会に誘われたり連絡先を交換して欲しいと持ちかけられたのには、先程とは違う意味で面食らった。
 部署は違えど俺は課長、曲がりなりにも上役だ。
 そういう相手をいきなり飲みに誘ったりプライベートの連絡先を聞いたりする度胸はすごい。告げ口する気は毛頭ないが、俺経由で直属の秘書課長の耳に入って人事考課に影響する、なんてことは考えないのだろうか。俺ならとてもではないが目上の人間をこんなふうには誘えない。
 だが、思い返せば俺も三年前には社内で人を集めて合コンを開こうなどと画策していたわけで、その時は役職だの勤続年数だのをそこまで難しく捉えていなかった。彼女達の大胆さにぎょっとしたのは、俺自身が責任ある立場になってしまったからかもしれない。
 あるいは単に老けただけか。
 何にせよ俺には先約があったし、なかったとしても特に親しくもない女の子達とこれから仲を深めるだけの気力は湧いてこなかった。それこそ三十になって急に老け込んだのか、今夜じゃなくても彼女達の誰かと親しくして今後に繋げようという気持ちさえ起こらなかった。まだ枯れるにはいくら何でも早すぎると思うのだが、どうしたことか。
 とりあえず上手い断り方も思いつかなかったから、連絡先の交換には応じた。
「俺に連絡先を教えたら、休みの日に仕事の電話をかけるかもしれないよ」
 そう言って脅かすと、冗談に聞こえたのか彼女達は一斉に笑った。
 実際、仕事の用件以外でかけることはないだろう。後はせいぜい、女の子達に囲まれたことを石田に自慢してやるくらいか。まあ、彼女達は揃って園田の後輩なのだし、迂闊に手を出せば彼女の耳にも入って呆れられそうだから、無関心でいるくらいがいいのかもしれない。
 そういえば、園田はどうしているだろう。もう式場を出ただろうか。
 ひとまず女の子達をやり過ごした後、俺は次第に人が減っていくロビー内で園田を探したが、彼女の姿はなかった。意外と早く式場を後にしたのかもしれない。
 俺も式場を出て、タクシーに乗り込んだタイミングで園田からメールが届いた。落ち合う約束をしていた店に、一足先に到着していたようだ。先に入ってるよ、急がなくていいよと彼女は言っているが、どうしても気持ちは逸った。
 今は他の誰よりも、園田と話をしたい気分だった。

 目的地は雑居ビルの地下に入っている小さなバーだった。
 建物の前でタクシーを降りると、外はまだ雪がちらついていた。コートは着てきたが首の後ろ辺りが肌寒く、俺は急ぎ足で店内へ駆け込む。
 階段を下りてバーの扉を開けると、中はほっとする温かさだった。
 琥珀色の柔らかい光が照らす店内はこじんまりとしていて、十人も入れば一杯になってしまうような小さな店だ。お蔭で大騒ぎをしたがるような酔客は寄りつかず、少人数でゆっくり飲みたい時に便利な店だった。営業課時代には仕事で使ったこともあるし、石田と飲みに来たこともある。

 園田は奥のテーブル席にいた。
 俺が彼女を見つけると、彼女もこちらを見て笑った。
「悪い、遅くなった」
「ううん。私もごめん、先に飲んでたよ」
 彼女は飲み口が厚手のグラスを掲げた。中身はやや濃い目のワイン色で、ほのかに湯気が立ち、グラスの上部が曇っている。
「何飲んでた?」
 俺が尋ねると、園田は予想通りの答えを返した。
「ホットワイン。身体温まるし、美味しいよ」
「じゃあ俺も、それにしよう」
 身体がすっかり冷えていたし、疲れていたので甘い物も欲しい気分だった。俺はコートを脱いで園田と向かい合わせに座ると、近づいてきた店員にホットワインを注文した。
 それから一息ついて、真正面にいる園田へと目を向ける。

 彼女は式場で見たのと同じ、黒いボレロとベージュのドレスを着ていた。
 披露宴会場でも華やかだった今夜の装いが、バーの温かみのある照明の下ではまた違った雰囲気に映る。鎖骨が作る影が彼女をより華奢に見せ、肌は鈍い光沢がかかって一層なめらかに見えた。少しだけ赤い頬の上、睫毛に縁取られた瞳は小さな光を浮かべてじっと俺を注視している。笑うでもないその眼差しに自然と胸が高鳴った。
 やはり、今夜の園田はきれいだ。
 考えてみればあの披露宴会場には大勢の盛装した女性達がいたというのに、俺が見ていたのは園田ばかりだった。それだけ彼女が俺の好みと一致しているということなのかもしれない。
 一度は付き合った相手だから、当然か。

「しかしドレスって本当に雰囲気変わるな。今夜はすごくきれいだ」
 俺が声に出して彼女を誉めた。
 しかし園田は驚きもせずに肩を竦める。
「まあ、こういう日だからね。ちゃんとした格好しないと」
 昔は俺が誉めたらたちまち赤くなって照れまくりだったのに、さすがに今じゃ動揺もしないようだ。
 それはいいが、喜びもしないというのはどうも納得がいかない。俺は一応心を込めて誉めたつもりだったのだが、園田の表情はむしろ冷ややかだった。
「誉めてるのに、ちっとも嬉しそうじゃないな」
 俺が不満を口にすれば、彼女はそれ以上に不満げに唇を尖らせた。
「それはそうだよ……。安井さんの顔に、馬子にも衣裳って書いてあるように見えるから」
「思ってもないよ、そんなこと」
 そんな失礼なことを思うはずがない。確かに物珍しがって普段よりしげしげと見入ってしまった自覚はあるが、それは園田にドレスがよく似合っているからであって、馬鹿にするつもりは断じてない。
 ただ、しげしげと見すぎてしまってはいるかもしれない。気がつくと目が控えめに開いた胸元や鎖骨に向いているのはあまり行儀のいいことではない。俺はともすれば吸い寄せられそうになる視線をさりげなく外しつつ言った。
「これでもじろじろ見ないよう気をつけてるのにな」
「へえ、そうなんだ。気を遣わせてごめんね」
 園田は気持ちのこもらない棒読みで応じた。
「もっと心を込めて言え。俺の言葉を信じてないだろ」
「気をつけてる割に結構見てるよね。わかるよ」
 どうやらばれていたらしい。
 それならそうと俺は園田に視線を戻し、開き直って宣言した。
「ばれてるなら仕方ない。堂々と鑑賞させてもらおう」
「相変わらずだね、安井さんは」
 彼女が溜息をつく。
 相変わらずだと言えるほど彼女は俺のことを深く知っているはずだったが、それにしては呆れたような物言いに聞こえるのが気になる。園田は俺のことをどういうふうに捉え、考えているのだろう。そんなに普段から遠慮会釈のない視線の持ち主だと思われているのだろうか。
「園田、俺のこと誤解してないか」
 尋ねる俺を、ワインのグラスを傾ける園田が真っ直ぐに見つめてくる。その目に、心かしか哀れみのような色合いが浮かんでいるようだった。
「してないよ。私、安井さんのことは結構よくわかってると思う」
「ならいいけど……何でかわいそうな人でも見るような目をするんだ」
「気のせいじゃない?」
 そうとは思えないが、追及したところで彼女の認識は引っ繰り返せないだろう。本人がよくわかっているつもりでいると言い切ったくらいだ。
 俺としてもこんな与太話だけで今夜の貴重な時間を食い潰したいとは思っていない。
 何せ今夜は久々の――彼女と二人きりで酒を飲む機会だ。
 もっと大切に味わい、楽しまなくてはならない。

 しばらくすると、俺が注文したホットワインが運ばれてきた。
 園田のグラスのワインは残り三分の一というところだったが、俺がグラスを掲げると、彼女も笑んで乾杯に付き合ってくれた。
「かんぱーい。結婚式、お疲れ様でしたー」
「お疲れー。まあ酒飲んで料理食べてきただけだけどな」
「そんなことないでしょ。安井さんは歌も歌ったし、疲れたんじゃない?」
「でもないよ。一曲歌っただけじゃ消費カロリーもたかが知れてる」
 彼女の問いにはそう答えたが、少しだけくたびれてはいた。だが下手に疲労を悟られて『じゃあ早めにお開きにしようか』などと言われては困る。せっかくだからじっくりと話がしたい。
 それに、じっくりと彼女を鑑賞したい。
 砂糖とスパイス入りの甘いワインを味わいつつ、俺は再び園田に視線を向ける。彼女は既にグラスを空けようとしていた。
「園田もまだ飲むだろ? 次は何にする?」
 急いで尋ねると、
「そうだね。何にしよっかな」
 彼女はカラフルな酒瓶が並ぶバックバーに目を向ける。
 これまでにも何度か一緒に酒を飲んだことがあるが、園田は俺よりも遥かに強い方だった。だからなのか二杯目も普通に酒を頼んだ。モスコーミュールにするそうだ。
 そして残りのワインを飲み干しながら、彼女は改めて結婚式の話を始める。
「花嫁さん、ものすごくきれいだったね。見とれちゃったよ」
 園田は小坂さんがそうしていたように、うっとりとした表情で言った。
 確かに花嫁はきれいだった。もちろん隣に立つ花婿も今日ばかりは見劣りするということもなく、新しい夫婦の姿を思い返して複雑な心境になる。
「ああ。花婿も、それなりに立派だったな」
 俺が相槌を打つと、園田は声に力を込めて反論する。
「それなりどころか、めちゃくちゃ格好よかったじゃない。いいよね、幸せいっぱいで」
「まあな。ああいうの見てると祝ってやりたい反面、羨ましすぎて辛いな」
 溜息だって出る。
 結婚式がそういう場だというのは百も承知だったが、幸せそうな夫婦に当てられ、幸せそうなカップルにも当てられて、独り身の辛さを噛み締めた一日でもあった。
 園田と会う約束がなければ、今頃は一人寂しく布団に包まり、涙に暮れていたかもしれない。
「後輩に先を越されて、仲間だと思ってた同期にも彼女ができて。俺だけ独りぼっちだよ」
 そうなるだろうという覚悟は、前からできていた。

 だが覚悟をしていたから全く平気だというわけでもない。
 これからは霧島や石田を飲みに誘うのにも、背後にいる奥さんや彼女の意向まで気を配らなくてはならない。何もかも今まで通りというわけにはいかないだろうし、そしてこれまでとの違いを意識する度、俺は多少の寂しさや孤独感、妬ましさを密かに抱くことになるのだろう。

 俺が目に見えて落ち込んだからか、園田が気遣わしげに眉尻を下げた。
 歯に衣着せぬ言動と見せかけて、意外と気を使ってみせるのが彼女だ。今も、俺をどう励まし慰めようかと言葉を探しているのだろう。睫毛を伏せた表情でわかった。
 俺も園田のことはよくわかっているし、深く知ってもいる。
 彼女まで憂鬱に引き込みたくはないので、俺はがらりと明るく切り出した。
「霧島やその奥さんとは休日、たまに一緒に飲むんだ。そういう時はまず間違いなく石田もいるんだけどな」
「じゃあ、霧島さんご夫婦とも結構仲いいんだね」
 園田が目を見開く。さも今知ったと言うような態度だった。
「言ってなかったか?」
「うん、多分。そこまでとは知らなかったよ」
「そうか……。そうだったかもな」
 三年前も霧島とは石田も交えて良く飲む機会があったが、そこに長谷さん――霧島夫人が加わるようになったのは、そういえば、俺が園田と別れた後の話だった。
 どうりで知らないはずだ。甘いはずのワインが、少し苦く感じられた。
 そこへちょうど園田が頼んだモスコーミュールが運ばれてきた。銅製のタンカードには櫛切りのライムが添えられており、園田はそれを美味しそうに一口飲んだ。
 俺もそんな彼女を見つめながら、話を続けた。
「霧島と長谷さんと、それから俺と石田。四人で会うのは楽しかった。あの夫婦は結婚前から仲睦まじくて目の毒だったけど、こっちはこっちで女性の前でも馬鹿話して、それを寛容的に受け入れてもらっていたから、おあいこだと思ってた」
 気楽さでは男だけの飲み会に敵うものなどないが、霧島夫人はなかなかに料理上手だった。彼女がいると酒の席のつまみが充実するので、いてくれてありがたかったのも事実だ。その上美人だし、俺達の馬鹿話を笑って聞き流してくれると来れば、同席を断る理由もなかった。
 いつの間にかそれが当たり前になっていたのだが、今年になり、その『当たり前』に新たな変化が訪れた。
「でも今年の初め、また皆で集まる機会があってさ。その時石田が、彼女を連れてきたんだ」
 苦笑して、俺は園田に打ち明けた。
「俺も石田には、『一度彼女を連れてこい』って嗾けたりしてたんだよ。でもいざ連れてきたのを見たら、無性に寂しくなったんだよな。俺だけ一人で、何やってるんだろうって」
 小坂さんも可愛いし、あの場にいて浮くようなタイプではない。もともと営業課員だから石田だけではなく霧島とも仲がいいし、何より女の子が増えると霧島夫人が嬉しそうにしていた。だから石田が彼女を連れてくることに問題はない。
 問題があるのは俺だけだ。
 あの場で未だに独り身なのも、浮いた話がないのも、そのことを内心で複雑に思っているのも。
「それは寂しいね」
 園田は同情してくれたのか、優しい声でそう言った。
 それだけで卑屈に傾きかけた心が少しばかり平静を取り戻す。
「そう思うだろ? 急に連中から取り残されたような気がして、とにかく堪えたんだよ」
 もちろん取り残されたからといって連中を責めることはできない。
 裏切り者、などと非難していいのは気心の知れた相手をからかう時だけで、本気でそれを言うのは実に痛々しいことだ。俺はこれからも霧島夫妻を羨みつつ冷やかしていかなければならないし、そのうち石田と小坂さんを祝福してやる必要も当然出てくることだろう。
 せめてその時、何のわだかまりもなく晴れやかな気持ちで祝えたらいいのだが。
「安井さんも幸せになれたらいいのにね」
 俺の心を読み取ったように、園田が俺を慰める言葉を口にした。
 だがそれは決して簡単なことではない。俺は冷めかけていたワインを飲みながら苦笑した。
「それができたら、こんなにやさぐれてないよ」
「できると思うけどな、安井さんなら。すごく格好いいし」

 息が止まった。
 園田があまりにも平然と、ためらいもせず、俺を誉めてみせたからだ。
 昔もそんなふうに言ってくれてはいたが、うろたえたくなるほど胸に響いたのは、俺が気を抜いていたせいかもしれない。
 まさかこんな日に彼女が俺を、こうも呆気なく誉めてくれるとは思わなかった。

「……だから、簡単に言うなって」
 ワインのスパイスにむせそうになりながら、俺は彼女をそっと咎めた。
 だが園田はにんまり笑って、さも俺にいい話を持ちかけるみたいに口を開く。
「いいこと教えてあげる。安井さんが今日の式で歌を歌った時、うちの課の子達が一斉に写真撮ってたんだよ」
 恐らくそれが俺に連絡先を尋ねてきた子達だろう。
 思い当たって、一気に気分が盛り下がった。
「へえ、写真をな」
 俺は情報にありがたみを感じず、適当に繰り返した。
 披露宴で歌っている間にフラッシュが焚かれたのは気づいていたが、気に留めるようなものでもなかった。だが俺の写真を手に入れて一体どうするのだろう、とは思う。被写体の許可を得ずに盗み撮りした写真なんて、大した出来にもならないだろうに。
「うん。それってやっぱり関心があるからでしょ? もてるんだよ、安井さんは」
 園田が尚も畳みかけてくるのに、俺は苛立ちを覚えていた。
「そうかもな。面白半分でなけりゃ、好意があるからこそ撮るんだよな」
 きっと、あの日の彼女もそういう理由で俺の写真を撮ったのだろう。
 手元になくても、見返さなくても覚えている光景。八月の森林公園。夏の日差しに輝く一面の芝生。ベンチに座る彼女の傍で浮かぶ風船と、すぐそこに停めてあるタンデム自転車。
 俺も同じ気持ちで、あの日、カメラを借りて写真を撮った。
「だから安井さんならその気になれば彼女くらいできるよ。頑張ってみればいいのに」
 思い出に割り込むように、今の園田が無責任な煽り方をする。
 そこで俺はワインを一気に流し込むと、思いの丈を口にした。
「確かに、頑張れば彼女くらい作るのは簡単かもしれない」
 多分、簡単だ。今日も女の子達から声をかけられた。あの中の一人と連絡でも取り合えば、どうにかなるかもしれない。
 でも。
「でも、俺が求めてるのはそういうことだけじゃないって、最近は思い始めてる」

 手近な恋愛に飛びつく気になれないのには、理由がある。
 俺は今夜、その理由と向き合おうとしていた。
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