Tiny garden

明るい家庭の築き方(2)

 夕食の配膳を手伝っていると姉一家がやってきて、園田家の居間は途端に賑やかになった。
 姉と会うのも一年ぶりで、その程度では何も変わっていない。姉とお義兄さん、それに姪っ子ちゃんは普通に普段着だったので少しほっとした。姉の方はと言えば、巡くんを見てなぜか驚いていたようだった。
「初めまして、伊都の姉の実摘と申します」
 巡くんに向かって挨拶をした姉が、その後で私に言った。
「びっくりしちゃった……ものすごい男前だね」
「う、うん、まあね」
 言われた私の方がめちゃくちゃ照れた。
 もちろん否定なんてしない。私が言うと自慢のようだけど、巡くんはとても男前だし素敵な人だ。さっきの挨拶だってとても立派だった。
 当の巡くんはと言えばさすがに言われ慣れているのか、あまり動じずに応じていた。
「ありがとうございます。伊都さんからお話を伺っておりまして、お姉さんには一度お会いしたかったんです」
「そうでしたか」
 姉が口元をほころばせる。
「私が言うのも何ですけど、妹は昔からお姉ちゃん子でしたから」
 姉の言葉は誇張ではなく、私が家族の中で一番懐いていたのは他でもない姉だった。家にいる時は常につきまとい、何かというと姉を頼った。歳が離れた姉妹だというのも一因かもしれない。そのせいで姉が嫁ぐ時はとても寂しい思いをしたのを覚えている。
 でも私が結婚する予定の相手を連れてきた今、姉は寂しがるどころか嬉しそうににこにこしている。
「安井さんの前ではどうかわかりませんけど、伊都ちゃん、実は結構甘えん坊なんです」
 姉がそう口にすると、巡くんは間髪入れずに頷いた。
「存じております」
 何の迷いもなく力いっぱい同意された。
 巡くんならそう言うだろうと思ったけど、そこは何と言うか曖昧に答えといて欲しかった。
「ちょっと巡くん……肯定されると恥ずかしいんだけど……!」
 私が袖を引っ張って抗議の意を示すと、巡くんは男前の顔で柔らかく笑む。
「お姉さんの前で嘘をついても仕方ないだろ」
「う……」
 それはそうかもしれないけど、さっきまで親と真面目に話をしていただけに余計気恥ずかしい。甘えん坊って言うか、巡くんにはちゃんと頼るようにしてるだけで、普段から子供みたいにべたべたつきまとってるわけでも必要以上に寄りかかってるわけでもないつもりだった。それはまあ、巡くんは甘えさせ上手だし時々お願いしちゃうこともあるけどもだ、あくまでも大人としての常識の範疇で――でもそれも、甘えてることには変わりないか。
 顔を見合わせる私と巡くんを見て、姉は胸を撫で下ろした。
「よかった。伊都ちゃんが素直に甘えられるんだったら、間違いなくいい人だよ。いつまでも仲良くね」
 姉の声は優しく、小さな頃の私が頼りにしていた頃と何ら変わりはなかった。だからだろうか、今の言葉は空っぽのお腹にすとんと落ちて染み込んだ。自然と頷く私の横で、巡くんもまた深く頭を下げていた。
「さ、食事の用意もできたことだし、まずは乾杯といこう」
 父が早々にネクタイを緩めながら切り出し、空腹の私達は勇んで乾杯をした後、食事を始めた。
「うちはお祝いの席と言ったら豆腐なんですよ」
 母の言葉通り、食卓には園田家の定番料理がずらりと並んでいた。茄子と豆腐の揚げ出し、肉豆腐、ほうれん草の白和えに厚揚げの炒め物。よそのお家ならこういう時はお寿司でも取るのかもしれないけど、我が家の定番はやはり豆腐である。
「安井さんが豆腐好きな人でよかったです。うちはもうこんなんですから」
 ころころ笑う母が父の隣に座ると、父も得意げに語を継ぐ。
「しかし豆腐好きには堪らないメニューばかりとなっております。ささ、どうぞどうぞ」
「では、いただきます」
 巡くんは早速、肉豆腐に箸を伸ばした。一口食べてから目を瞠って、私の方を向いて言う。
「伊都が作るのと同じ味だ」
「うちのお母さんから習った味だからね」
 多少のアレンジ、もしくは簡略化はしてるけど、大体は母のレシピに忠実な作り方をしている。その方が美味しいし、豆腐のよさも引き立つし。
「お口に合いました? よかったです」
 母は微笑んだ後、ぱんと手を打ち鳴らして、
「そうだ。お豆腐が好きならあれも出しましょうか」
「あれか、私は好きだけどお若い人の口に合うかな」
 気がかりそうな父をよそに、母は立ち上がって台所へ向かう。
 あれ、というと多分あれだろう。巡くんはきょとんとしていたけど、私は巡くんの口になら合うんじゃないかなと揚げ出しを食べながら思う。母が作る揚げ出しは、私の料理と同じ味つけなのに不思議と懐かしい。
 程なくして戻ってきた母は、かまぼこのように厚く切った豆腐の味噌漬けを持ってきた。
「こういうの、若い人はあまり食べないかもしれませんけど、お酒のおつまみにはぴったりなんですよ」
 この味噌漬けはしっかり水切りした豆腐に味噌を塗って冷蔵庫で数日寝かせて作るものだ。我が家では味噌に蜂蜜を混ぜて少し甘めにする。うちの父はこれをちみちみ食べながら日本酒を飲むのが好きだった。
「これ、お豆腐ですか?」
 意外なことに、巡くんにとっては初めて見るもののようだ。しきりに目を瞬かせているので、私が横から説明を添える。
「豆腐の味噌漬けだよ。食べたことないんだ?」
「ないよ、と言うより見るのも初めてだ。豆腐を味噌に漬けるのか……」
「食感が変わって面白いですよ。チーズみたいになるんです」
 すかさず姉が勧めると、父も母もお義兄さんまで揃ってうんうん頷いた。
「これがまた美味しいんですから。まあ騙されたと思って食べてみてください」
「そうそう、もしお口に合わなくてもそれはそれで思い出になりますから」
「本当に美味しいですよ、僕も初めて食べた時はびっくりしました」
 口々に勧められたからか、巡くんはちょっと戸惑っていたようだった。無理もないと私は思う。もっとも遠慮するつもりは端からなかったようで、好奇心に目を輝かせながら豆腐の味噌漬けを一切れ取った。
 園田家一同が身を乗り出すように見守る中、巡くんは味噌漬けを口に運ぶ。ぱくっと男らしく一切れ食べてしまってから、すごく意外そうな顔つきになった。
「へえ、こういう食感になるんですね。美味しいです」
 たちまち居間の空気がふっと緩んで――別に緊迫していたわけでもないけど本当にそんなふうに感じて、父も母も姉一家も、巡くんの様子を気にしてくれているのがわかった。そして巡くんが豆腐の味噌漬けを気に入ってくれたのが、皆、すごく嬉しいようだった。
 巡くんは味噌漬けをもう一切れ、箸で取ってから私に言った。
「これ、本当に美味しいな。帰ってから作ってくれよ、伊都」
「いいよ」
 私が答えると、今度は母が不思議そうに、
「今まで作ったことなかったの?」
「ないよ。晩酌する暇そんなにないし、いつも家で晩ご飯食べるわけでもないし」
 終末に食材をまとめ買いしたら、食べる時にその都度あるもので何か作る、というのが私の食生活だった。仕事が忙しければ夕飯を作れないこともあるし、会社で食べてしまうこともある。だから『あとで食べる為に作っておく』みたいなのは何となく私の生活リズムに合わなかった。豆腐の味噌漬けを作らなかった理由はそんなところだ。
 でも巡くんが食べたいと言うならもちろん作る。こういうのも食べるんだ、ますます巡くんでよかった。
「伊都は随分お仕事忙しいみたいね。十時過ぎに電話してもまだ会社、ってことあるでしょう」
 母はどこか咎めるみたいに私を見たけど、そんなこと言われても忙しいのは私だけのせいじゃない。主に締め切りのせいです。
「くれぐれも、身体壊さないように気をつけなさいね。無理したら駄目だからね」
「はーい……」
 子供の頃みたいな叱り方をされて私は首を竦め、それを見た巡くんがこっそりと笑ってみせる。馬鹿にするみたいじゃなく、いつも私を『可愛い』と言ってくれる時の優しい目で笑う。そういう目で見られると恥ずかしくてくすぐったくて、でも正直ほっとしてしまう。
 こういう時にも思う。些細なことではあるけど、細やかに優しい巡くんが私は好きだ。
 そんな巡くんに、うちの父が切り出した。
「でも、安井さんは人事の方なんでしょう? だったら安心です」
「え? 安心って何、お父さん」
「伊都の労働時間も環境も安井さんが見てくださると思えば、そりゃ安心だろう」
 巡くんだって私だけ見ているというわけにもいかないし、あんまり重圧かけるようなこと言わないで欲しいんだけどな。複雑に思う私をよそに、母がまたしてもぽんと手を打つ。
「人事の人とコネがあるというだけでいいことよね。よかったじゃない、伊都」
「コネって、いやコネだけどさ……巡くんは公平な仕事をする人だからね、言っとくけど」
「おまけに同じ会社となればお仕事に理解もあるし、言うことなしね」
 その点はまあ一理あるなと思う。忙しくなると日付が変わるまで残業する仕事なんて、なかなか理解してもらえるものじゃない。まして広報の仕事が面白くなってきたところだ、辞めなくてもいいと言ってくれる巡くんの気持ちがありがたかった。
「それに何より、お豆腐が好きな人だもんね」
 姉がそう言って、自分の旦那さんを――お義兄さんをちらりと見る。
「やっぱり結婚するんだったらそこが大事だよね。食べ物の趣味が合うって」
「それは本当に思うよ。巡くんが豆腐好きになってくれてよかった」
 私はしみじみと実感して、彼に言った。
 巡くんは明るく笑って応じる。
「伊都が美味しく料理してくれたからだよ」
「そ、そうかな。ありがとう」
 ストレートに誉められて、私は思わずはにかんだ。お蔭で家族からは一斉に冷やかすような笑みを向けられて、困った。

 夕食が一段落した後、お酒を切り上げた巡くんにコーヒーを入れてあげることにした。
 台所でお湯を沸かしつつ、流し台で食器を洗う姉と少し話をする。巡くんとの馴れ初めを尋ねられたので簡単に打ち明けたら驚かれた。
「えっ、お見合いなの?」
「うん」
「そうなんだ……そうは見えないって言ったら変かな」
 姉が小首を傾げる。
 それで私も照れつつ説明しておく。
「って言っても社内のだしね。仲人はうちの上司だし、もともと同期だから仲はよかったし」
 別に詳細を語ったわけではないのに、姉はそこで何もかもわかったような顔で微笑んだ。
「ああ、そういうことならわかるかも」
「わかるって何が?」
「実は昔から好きだったとか、そういうことなんでしょう?」
 姉の指摘の鋭さにどきっとする。どうしてわかったんだろう。
 だけどいかにも『ばれたか』みたいな顔をするとどつぼにはまりそうなので、あえてそ知らぬふりをしておいた。
「だからお見合いと言っても、慣れみたいなものはあったかななんて……」
「そっかあ。よかったね伊都ちゃん、おめでとう」
「お姉ちゃん……何か勝手な解釈してない?」
「してないよ、多分」
 食器を全て洗い終えた姉が、流しの蛇口を捻ってお湯を止めた。
 そして布巾で食器を拭きながら続ける。
「実はね、伊都ちゃんが向こうで一人暮らししながら働くの、ちょっと心配してたんだ」
「そう? まあ、ここからは遠いもんね」
 就活中は両親も私も実家近くでの就職を希望していた。でもそれは叶わず、向こうで働くこととなったわけだ。
「一度くらいはホームシックになって『もうそっち帰りたい』なんて言うんじゃないかって、お父さんもお母さんも、もちろんお姉ちゃんも思ってたんだよ」
 姉は拭いた食器をしまいながら語る。
「でももう八年……九年だっけ? 結局一度もなくて、偉いけどどうしてかなって思ってたの。そうしたら伊都ちゃんが安井さんを連れて来たでしょう。それで納得したの」
 忙しなく立ち働く姉は私を見ずに、でも優しい声でぽつぽつと言った。
 その声に懐かしさを覚えながら、私は黙って耳を傾ける。
「だからなんだなあって……甘えん坊だった伊都ちゃんが泣き言も言わず、帰りたがる様子も見せずにずっと頑張ってこれたのは、安井さんがいたからなんだって」
 言われてみれば私はホームシックにかからなかった。一年目からそんな暇がなかったというのも事実だけど、姉の言う通り巡くんがいたからというのもあるのかもしれなかった。
 私は入社一年目から彼のことが好きだった。好きになっても告白なんてできなかったけど、巡くんと会える楽しみが辛い朝や忙しい日々の支えになっていたのも確かだ。巡くんがいなかったら今の会社も続かなかったかもしれないし、さっさとこっちへ帰ってきていたかもしれない。
 そういう人と結婚するんだなと思うと、しみじみ幸せでたまらなかった。
「伊都ちゃん、髪伸びたね」
 ふと、姉が私の束ねた髪に触れた。
 一月から伸ばし始めた髪はようやっとポニーテールが作れる長さになっていて、高く結わえるとまさに尻尾みたいに後ろでゆらゆら揺れるのが楽しかった。その髪を手のひらで弄びつつ、姉が続ける。
「長いのも似合うじゃない」
「ありがとう、お姉ちゃん。結婚式に備えて伸ばしてるんだ」
 姉に誉められるとくすぐったい。子供に戻った気分で笑う私に、姉もまた一児の母とは思えない無邪気な笑顔を見せてくれた。
「そうなんだ、いいと思うよ。伊都ちゃんは長いのも似合うと思ってたもん」
「そういえば言われたことあったね、あの時は結局伸ばさなかったけど」
 小学生の頃からずっとショートヘアを貫いてきた私に、姉は時々髪を伸ばすことを勧めてきた。でも昔から活発だった私にロングヘアは邪魔そうに思えたし、似合うとも思わなかったから一度として踏み切れなかった。
 ずっと続けてきた髪型を変えるのって勇気がいることだ。私は巡くんが今の髪型にしたきっかけを思い出して、彼が踏み切った時の気持ちを想像してみたくなった。私が髪を伸ばし始めたのと同じ理由だと、今ならわかる。
「いい人を見つけたんだね、伊都ちゃん」
 私の髪からするりと手を離し、姉が目を細めた。
「伊都ちゃんが選んだ人だから、きっと明るい家庭を築けると思うよ」
「……うん。私も、そう思う」
 巡くんは素敵な人だし、優しいし、趣味や仕事に理解もあるし、そして何より豆腐好きだ。結婚相手としてこの上ない好条件が揃っている。巡くんとだったらきっと明るく、温かで、毎日の豆腐料理が美味しい家庭を築けると思う。
 私も、巡くんが好きだ。だからこそこうして髪も伸ばしているし、実家にだって来てもらった。
 彼の幸せの為なら何だってできると、今は思っている。
「あ、そうだ」
 やかんのお湯が沸いてしゅんしゅん言い出した頃、姉が母みたいに手をぱちんと打ち鳴らした。
「ねえ伊都ちゃん、安井さんにアルバム見せたりしないの?」
「え? 何で急にそんな話?」
 ぎょっとする私に姉が、にこにこと上機嫌で答える。
「お父さんがね、この間伊都ちゃんの卒アル全部探し出してたの。伊都ちゃんのセーラー服、すっごく可愛かったよ。今と全然変わってなかった!」
 しかもどさくさに紛れて既に見たんですか、お姉ちゃん。
「い、いいよ恥ずかしいし」
 私は慌てたけど、姉はそれがぴんと来ないのか目を瞬かせた。
「可愛かった、今とちっとも変わってないって言ってるのに?」
「変わってないから嫌なの! 何か痛いじゃない、セーラー服とか……」
「制服着てるのがどうして痛いの? 安井さんだって聞けばきっと見たいって言うと思うよ!」
「待ってお姉ちゃん聞かないで! わわわわ、待ってってばー!」
 当然ながらあの巡くんが首を横に振るはずもなく、かぶりつきで是非是非是非見たいと答えていた。思えば五月のゴールデンウィーク、彼の実家で私も巡くんの可愛すぎる子供時代の写真を見せてもらっていたのだ。だから私に拒否権はない。残念ながらない。でも私も彼の幸せの為なら何でもできると思っているけど、やっぱりそれは、それだけは恥ずかしいと言うか何と言うかでちょっとばかり抵抗が!
 ――でも結局、見られた。

 そのせいで、今回の里帰りについて尋ねると、巡くんは決まって同じ答えを返すようになった。
「伊都のセーラー服姿、可愛かったな……!」
 帰省を終えて戻ってきて、お盆休みが開けて仕事が始まってからもしばらく言い続けられた。随分と印象深かったらしい。
「あの可愛い女子高生時代にも一度出会っておきたかった。惜しいことをしたな」
「もう忘れてよ、すっごい恥ずかしいんだから!」
 私が訴えてもどこ吹く風で、むしろいい笑顔でこう提案してくる始末だ。
「今でもまだいけると思う。どうかな、伊都」
「いや無理だから! 私もう二十九だから!」
「でもあんまり変わってなかったよ。笑った顔なんて今のまんまだし、照れた顔もそうだ」
 巡くんはそう言うし、実家では両親にも姉にも同じことを言われたけど、変わっていないはずがない。たとえ顔つきが同じでも中身の方は違っているし、髪だって伸ばすようになった。今の私にセーラー服なんて似合うはずがないのだ。
 だから彼の要求は呑まなかったけど、もう一つのご要望にはお応えしておいた。
 豆腐の味噌漬けを作って、時々食卓に出すようにした。
「ご実家で食べたのと同じだ。すごいな、ちゃんと再現できるのか」
「同じレシピだからね」
「美味いよ。ありがとな、伊都」
 私のお手製味噌漬けを食べて顔をほころばせる巡くんに、私も幸せを噛み締める。
 本当に、彼とだったら明るくて温かくて幸せな家庭が築けると信じている。だって巡くんは素敵な人で、優しくて、私の趣味や仕事に理解もあって、そして豆腐が好きだ。
 一つ一つの条件が噛み合う、こんな理想的な相手はきっと他にはいないだろう。
「参ったな。惚れ直したって言わせようと思ったのに、こっちが惚れ直したよ」
 味噌漬けを味わう巡くんが困ったように笑う。
 でも私に取って印象深かったのはやはり彼の真剣な挨拶であり、それを思い出すとどきどきしてくるくらいには惚れ直していた。ただ私には、そういうことを口にするのに若干の抵抗がある。
「惚れ直し……てないなんて、言ってないけど」
 精一杯遠回しに言ってみたら、巡くんは目を瞠った後でくつくつ喉を鳴らして笑った。
「もっとわかりやすく言ってみて、伊都」
「は、恥ずかしいから……何となく察してよ、その辺は!」
「駄目。俺がお前の為に頑張ったって思うなら、精一杯やりきったって思ってくれてるなら、ご褒美のつもりで言ってくれよ」
 そんな言い方をされたら言わざるを得なくなる。
 ――それで結局、言った。

 今回も、巡くんに惚れ直しました。
 ずっと昔から好きだったんだけどな。まだ好きになる余地があるなんて、自分でも驚いている。
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