Tiny garden

世界と引き替えにしても守りたいひと(2)

 青春の追体験をしようにも、とかく時間がなさすぎる。
 働くべき日は週に五日もあるのに、休みはたったの二日しかない。その貴重な休みを恋愛ばかりに費やしてるわけにもいかない。俺だって掃除はしなくちゃいけないし、買い物も忘れると後で慌てる。たまには愛車の手入れだってしたい。デジカムの手入れも今からしておきたい。シャツやスーツの買い替え時を読み誤って焦ったことも何度かある。霧島や安井から誘いがあるのもそう珍しくないし、何だかんだで一人で出歩く時間も欲しい。休日がもっとあればいいのにとよく思う。給料は据え置きで。
 仕事は毎日わらわらと湧いてくる。やっつけてもやっつけても次から次へと現れるからきりがない。それを気忙しく片づけていくうちに覚えているべき事柄をすっかり忘れてしまったりして、やっぱり後で慌てる羽目になったりする。

 電話をした翌日、安井と顔を合わせた時もそうだった。
「あ、石田」
 営業課に駆け込もうとした俺を奴が呼び止めてきて、振り返った瞬間に電話で話した内容を思い出す。――ああそうだ、週末の件。霧島とは朝礼の時に会ったのに、聞くの忘れてた。今日中に聞かねば。
 それから近づいてくる安井に目をやり、財布だけを手にした姿を認める。
「今から飯?」
「そうだよ。そろそろ行かないと社食のめぼしいメニューが終わる」
 言われて腕時計を見る。時刻は午後一時を過ぎた辺りで、空腹感も今更のようにせり上がってくる。腹の音を鳴らして笑われるのは格好つかない。何か食っとかないとと考え、すぐにカップ麺の買い置きが切れてたことも思い出す。足しとくの忘れてたよ。憂鬱。
「お前は? これからか?」
 逆に聞かれて、俺はとりあえず頷く。
「もうちょっとしたら行く。外出るのめんどいし」
「わかった」
 軽く笑った安井は、そのまま俺と営業課の前を通り過ぎていく。こっちも見送る暇はなく、改めて課へ戻る。外に買いに行く時間は惜しいし、今日は社食で飯にする。その為にもなるべく迅速に休憩へと移らなければならない。
 しかし席に戻って仕事をひとまず一段落させようとすれば、そこへ霧島が戻ってくる。
「お疲れ様でーす」
 手にはコンビニの袋を提げている。今日は愛妻弁当じゃないらしい。
「お前、今日もう終わり?」
 自分の席から呼びかけるように尋ねてみた。霧島は肩を竦めている。
「いいえ、午後からまた回ります。資料取りに来ただけなんで、昼も車の中で食べますよ」
 そう言って掲げてみせた白いビニールには、おにぎりとサンドイッチとコーヒーらしきものが入っている。奴が麺類じゃないのが忙しさの何よりの証明だ。そりゃ掃除もおろそかになるわなと納得しつつ、覚えているうちに例の件を聞いておく。
「そうだ、明日の話だけどな」
 俺が切り出した途端、霧島はどういうわけかものすごく得意げな顔になった。
「あ、それならばっちりですよ先輩。予定通りやりましょうよ」
「本当か? お前、掃除が間に合うかどうかってこないだ――」
「いやいや、今ならすっごいきれいなんですよ。見たら先輩たち驚きますよ!」
 まるで自分の手柄みたいに胸を張る霧島。
 俺は口にこそ出さなかったが、長谷さん頑張ったんだなあと苦笑しておく。衣食住にはとんといい加減な霧島の嫁になるなんて、そういう意味では英断だ。
 まだ霧島が長谷さんとお付き合いする前、奴の部屋に初めて上がらせてもらった時は衝撃だった。居間にあったのはローテーブルと電話台、それにテレビとビデオデッキだけ。酒のつまみ用に取り皿が欲しいと言ったら茶碗と汁碗とラーメン丼を出してきた。変なところだけ豪気な真似をする。そのくせやたら物持ちがよく、何にもない部屋を安井と二人でからかってたらおもむろに奥の部屋からドンジャラを出してきやがった。小学生の頃に買ってもらったものだと言っていたから、物持ちのよさたるや尋常じゃない。結局、ドンジャラは三人でやった。思ったより楽しかった。
 閑話休題、そんな風変わりな奴でもちゃんと結婚できるんだという点ではミラクルだと思う。最後の決め手はやっぱ人柄なのかね。
「じゃあ明日、行くからな」
 驚きはしないだろうが、長谷さんの努力ぶりは見てこよう。俺はそう答え、ついでだと思って言い添えておく。
「安井にも俺が伝えとく。これから社食で顔合わせるし」
「お願いします。ちゃんと言っといてくださいね、きれいだから大丈夫ですよって」
「……わかった」
 それまでは大丈夫じゃなかったのか。つくづく奥さん、苦労するな。
 しかし得意顔の霧島を見てると、そういうのもちょっといいなと思えてくる。内助の功とでも言うのか、そうやって支えてくれる女の子だったら毎日の気忙しさも少しは軽減されるだろうし、時間がなくて会えない時も存在を感じてられたりして、幸せな気分になれそうだ。
 小坂とは週五で顔を合わせてるし、どんなに忙しくても存在を忘れることはないだろう。でももう少し密に、身近に感じられるようにもなりたかった。メールくらいではなかなか縮まらない距離感をぐいっと飛び越えられるように。
 その為にも休日が、時間が欲しい。

 やっとのことで社食に向かえたのは午後一時半過ぎだった。
 その頃にはもう俺の好きな焼き魚定食も、日替わりのBランチも残っておらず、カレーライスときつねうどんという二択を迫られやむなくうどんを選んだ。出来上がったのを受け取ってから食堂内をぐるりと見回し、安井の姿を探す。
 と、そこで小坂を見つけた。あいつも外回りに出てたはずだが、戻ってきたんだろうか。ともかくこれはついてる、安井なんか放っておいて一緒に食べようか――と思えたのは一瞬だけ。
 すぐに気づいた。小坂の隣に、当の安井が座っていた。
 上がりかけたテンションが急降下した。何で一緒なんだよ。て言うか何で隣なんだよ。

「遅かったな、石田」
 俺が近づいていくと、安井はさっきの霧島並みに得意げな顔をしていた。
 仕返しにもならないが溜息をついてやる。
「ちょうど霧島が営業から戻ってきてな、ちょっと話してた」
 それから空いてない小坂の隣は諦め、代わりに真向かいに座ってやる。目を向けたら可愛くはにかんでみせたので、俺の機嫌が多少直る。これはこれで悪くない眺めかもしれない。
 でも肩や肘が触れ合う距離ってのも捨てがたい。片側三席の長テーブル、小坂を真ん中にすれば俺も隣に座れるのに――いや、それより安井が退けばいいんだよ普通に。
 せっかくなので向かい合わせを堪能すべく、俺は小坂に話しかける。
「で、小坂も戻ってきてたのか? 午後もまだ回るんだろ?」
「そうなんです。でもお昼ご飯は社食にしようかなって思いまして」
 彼女の答えにふと見てみれば、南蛮揚げを食べていた。そういえば今日は金曜日か、そりゃ小坂もわざわざ戻ってAランチにするよな。好きだもんな南蛮揚げ。
「外で食べるよりはいいよな、値段が手頃で。でも一旦戻ってきて、また出てくのは面倒じゃないか?」
「いえ、平気です。午後も頑張ります!」
 小坂の答えははきはきしてる。この意気込みよう、南蛮揚げの為なら会社と外の往復なんてちょっとやそっとの苦労も厭わないつもりらしい。何だよもう、妬くぞこら。
「そういう妙なバイタリティはあるよな、お前」
 悔しくなったのでからかってみることにした。
「この間みたいに腹鳴らさないようしっかり食べろよ」
 思い出させてやると小坂はぱっと赤くなって、視線をうろうろ泳がせる。
 つい何日か前、まだ一人での営業に慣れていないらしい小坂は、あちこち回るうち飯時を逃したそうだ。よりによって帰社してから、衆人環視の下で腹を鳴らしてしまった。別に轟音とかじゃなく、きゅるきゅる可愛い音だったんだが、可愛いと言ったところで本人が喜ぶはずもなく、その日はしばらく立ち直れない様子で俯いていた。
 そんな小坂も可愛いから、ついからかいのネタにしてしまう。
「石田も素直じゃないな」
 それを見咎めたか、ここで安井が口を挟んできた。
「一緒の休憩時間で嬉しいよ、くらい言えばいいのに」
 明らかにこの場に邪魔な奴が何を言う。お前がいなかったら言ってたよ。
「小坂はともかく、安井がいるから嬉しくないんだよ」
 俺はすぐさま応戦して奴を睨んだ。
 しかし向こうは相変わらずの鼻持ちならない口調で、
「邪魔したなら悪かった。でも俺が小坂さんを誘っておいたんだから、お膳立てには感謝してもらいたいな」
 お膳立てね。お節介でご飯三倍食える奴だもんな、お前は。
「そもそも何でお前が小坂を隣に座らせてんだよ。お膳立てなんて言うなら隣を空けとけ」
「向かいの方がいいじゃないか、見つめ合えるから」
 こっちが文句を言おうと全く聞く耳持たず。その上、なぜかまごまごしている小坂に水を向け始める。
「小坂さん、君の上司はどうしようもないな。俺の小さな親切に礼さえ言わないんだから」
「え、ええと……」
 当たり前だが小坂は答えに窮している。
 ほら見ろ、小坂がそんなこと思うはずがない。俺は負けじと指導する。
「小坂、安井の話なんて聞く耳持たなくていいぞ。どうせこいつはデタラメしか言わない」
「そんなことは……」
 ますます困ったような顔になる小坂。いや、そこは素直に答えちゃっていいところだ。いつもみたいにいい返事でもしとけばいい。
「ほら見ろ、石田が乱暴な口を利くから小坂さんが怖がっちゃったじゃないか」
 あまつさえ安井は全部俺のせいみたいな主張をしてくる。
 怖がってない、単に反応に迷ってるだけだ。そんなの見ればわかる。安井だって把握しているくせにわざとらしい。
「困らせてるのはそっちだろ。いい加減なことばかり言いやがって」
「ま、俺はもうすぐ済むから、直に退散してやるよ」
 噛みついても受け流すだけの安井が、その後ですぐ得意技の話題変更を披露した。
「ところで、霧島は何て言ってた?」
 都合が悪くなるとこうだよ。
 まあ大事な話には違いないし、伝言もあったし、長く続けてると小坂が本当に萎縮しそうなのでこっちも乗っかることにする。
「ああ、例の件は明日でいいってよ。今なら部屋もきれいなんだと」
「そうか。じゃあ明日の夜決行だな」
「あいつの家に行くのも久し振りだ。今回はつまみの心配がなくていいな」
 長谷さんは、大変だろうがな……。
 彼女のいい嫁さんぶりは相当だった。俺と安井が霧島の部屋へ行くと、ほぼ毎回のようにつまみやら夜食やらを用意してくれる。しかもこれが絶品だった。負担じゃないのかとも思うんだが、長谷さんに言わせると『いつも霧島さんがお世話になってますから』ということらしい。霧島本人は間違いなく言いそうもないことだ。
 ともかく、そういう話ならむげにする方がかえって悪い。俺と安井は嬉々としてごちそうにあずかり、その分酒や乾き物なんかを持参することでイーブンにしている。
 俺と安井の会話を聞いてか、小坂がきょとんとしている。安井がすぐ隣という地の利を活かして、俺より先に解説を始める。
「明日は俺と石田とで、霧島の部屋に押しかける予定だったんだ。品よく言えば食事会ってところかな」
「そうなんですか、いいですね!」
 自分のことみたいに嬉しそうな顔をする小坂。うきうきと声を弾ませ続けてきた。
「皆さんってすごく仲がよろしいんですね」
「付き合いだけは長いからな」
 俺と安井は入社当初から、霧島はそこからマイナス二年のお付き合い。そりゃ長い。もういい加減顔も見飽きてきたくらいだ。
「昔はよく行ってたんだけどな、最近はほら、霧島に彼女が出来たから。裏切り者と仲良くする訳にはいかないだろ? だから控えてたんだよ」
 安井が物騒な単語を持ち出すと、小坂はぎょっとしたようだ。
「う、裏切り?」
 間違ってはいない。あいつが俺たちを差し置いて長谷さんに花火を見せようとしたから、俺たちはこりゃ負けたと思って例の合コンへの情熱をあっさり失くしてしまったんだ。しかもあれ不意打ちだったからな、『長谷さんを営業課に連れてきたいんですが』とかいきなり言い出したからなあいつ。それまでそこはかとなく、霧島は長谷さんと仲いいっぽいな、同期だからかな、と匂わせる程度だったのに。
 でも今となっては、あの時合コンなんてしなくてよかったのかもな、という気もする。
「そりゃもう重大な裏切りだ。何たってあいつは長谷さんに手を出したんだからな」
 俺が語を継げばすぐに安井も便乗してくる。
「長谷さんは当時、営業課のアイドルだったんだよ。それをまあよくもぬけぬけと」
「そのくせ結婚に漕ぎ着けるまで時間掛かり過ぎってところがな。あの甲斐性なしめ」
「全く、長谷さんも見る目がない。霧島のどこがよかったんだろうな」
 この件に関してだけは安井と意気投合できる。マシンガンのように愚痴も出る。
 短い平和でもあるが。
「小坂さんも、付き合う相手はよく吟味した方がいいよ」
 最近の安井は霧島を弄るついでに俺もからかっておきたいらしい。ぽかんとしている小坂に話を振り、俺がつい顔をしかめたのには気づかず小坂が慌て出す。
「え、わ、私ですか?」
「そう。甘い言葉に惑わされず、現実的な目で相手を見ておくようにな。口の上手い狼さんが君を狙っているかもしれない」
 誰のことだよ誰の。
「あ、でも、私はまだそういうのは!」
 わかっているのかいないのか、小坂は小坂でとんちんかんな否定を始める。そういうのはって、何がだ。
「まだ考えてない? それなら都合がいいな」
 安井は含んだ笑みを浮かべて俺を見る。
「どうも見た感じ、小坂さんは恋に恋する女の子って風だからな。少しは石田の現実を見て、幻滅するなり覚悟するなりしておいた方がいい」
「えっ!?」
 わざわざ小坂をびっくりさせるようなことまで言ってくる。
 現実って言うが、俺は小坂の前でだって自分を偽ったりはしてない。そりゃあ安井や霧島相手のようにオープン全開ではさすがにまずいから、およそ三割減くらいの控えめさを心がけてはいるがな。幻滅されるんだったらとっくの昔にされてるだろう。
「余計なこと言うなよ馬鹿」
 俺が唸っても安井は手を緩めず、
「だってかわいそうじゃないか。小坂さんが石田みたいなのに誑かされてしまうのかと思うと」
 何だよ、お前まで霧島みたいなこと言いやがって。いつもなら俺を無責任なほど嗾けてくるくせに、小坂の前だと安井の方こそ態度違わないか?
「誑かしてない。どさくさに紛れて人を貶すな」
「そう言うけど一歩間違えば犯罪だ。今時こんなに初心な子、滅多にいない」
 安井はそれから、うろたえている小坂の顔をわざわざ覗き込むようにして、言った。
「小坂さんは一昔前の女学生って印象だな。好きな人の写真を定期入れにでもしまっておきそうなタイプ」
「――ええっ!?」
 声を上げ、小坂が固まる。
 妙な反応だ、と俺は思う。何にそんなびっくりしてんだ。
 ……定期入れか?
「もしかして、図星?」
 まさか当たりだとは思ってもみなかったのか、安井はいくらかぎこちなく尋ね、
「……あの、その」
 小坂は耳まで赤くしながら、まるで底なし沼に沈んでいくみたいにずんずん項垂れていく。
 本当の本当に図星かよ。俺もさすがに反応に困る。だって、定期入れだろ? 今時の女の子もそういうことしちゃうもんなのか? 昔はしてたって言うよな、うちの姉ちゃんも学生時代はアイドルの写真を生徒手帳に入れてたし――雑誌の切り抜きだからぺらっぺらで裏面のインタビューが透けて結構気色悪いことになってた。ああいう感覚は当時から、俺にはわからなかったな。
 この間まで女子大生だった小坂もそれと同じようなことをしてるわけか。なぜそんなこっ恥ずかしいことやっちゃうのか。しかも写真って、何かあったっけ。俺のだよな?
 心当たりを探そうと俺が首を傾げた時、
「ごちそうさま」
 安井が浮かれた声で言って、席を立つ。達成感でも覚えたような姿勢のよさで、しかし挨拶もなしに食器を下げに向かったようだ。そしてそのまま、社食を出て行った。
 残されたのは俺と小坂と微妙な空気。
 あと食べかけの南蛮揚げときつねうどん。
「まさかと思うが」
 ストレートに聞いちゃった方が早い。俺は半分笑いながら尋ねる。
「本当にやってんのか、定期入れ」
「いえ、その……はい」
 もごもごと肯定する小坂。顔を上げないところが語るに落ちている。
「見せてみろ」
 急かすと小坂はスーツの内ポケットに手を突っ込み、抜き出したオレンジ色のパスケースを、やはり顔も上げないまま差し伸べてくる。俺はそれを受け取り、中を開いて検める。
 ここで南蛮揚げの写真とか入ってたら一生立ち直れないところだが、幸いにも――でもないな。とにかく、俺の写真はあった。写真と言うか、実に見慣れた俺の名刺があった。
「写真ってしかもこれかよ」
「すみません、でも、それしかなくて」
 申し訳なさそうにする小坂。謝るポイントまでずれてる。
 そうじゃなくて、俺が何の為に名刺を渡したかってことを考えて欲しいんだって。それをお前、ただ定期入れにしまっとくとか……そりゃメールだって自発的に送ってこないだろうな。鑑賞用とは想定外。
 いや、そういう気持ちが全く嬉しくないわけじゃないけどな。内ポケットに入れといてくれたのもいい傾向だけどな。やっぱずれてる。そんな乙女チックなことをして恋が叶っちゃうような上手い話は漫画の世界くらいにしかないんだぞ。
「ベタにも程がある」
 小坂の愛読書は案の定、少女漫画だろうか。俺は呆れて突っ込んだ。
「そんなことしてる暇があったら、たまにはお前からメールを寄越せ」
「う……おっしゃる通りです」
 力なく答えた小坂は、その後自棄みたいな猛烈さで南蛮揚げを食べ出した。
 見ていて気持ちがいいくらいの食べっぷり。その食欲と同じような勢いで恋愛にも熱中してくれたら、と願わずにはいられない。少なくともお前のしてる恋は、定期入れにしまい込んでおくべきものでは断じてない。むしろ試しに手を伸ばしてみるだけであっさり手に入っちゃうものなのに――小坂が何を望んでいるのか、いまいち掴めない。本気でルーキーイヤーが済むまで待つつもりなのか。
 待てるか、と俺は思い、小坂の揺るぎない食べっぷりを見てつい笑ってしまう。
 どうしても要るよな、距離感を埋める為の時間。小坂の恋愛観とやら、一度じっくり聞いてみるべきかもしれない。
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