Tiny garden

教訓赤ずきん(2)

 予想は概ね順調に現実となり、九月を迎える頃には、小坂さんと石田先輩は以前よりも更に仲良くなったようだった。
 と言っても二人が既に付き合ってるという話でも、今のところはないみたいだ。先輩はお酒が入ったりするとよく小坂さんについてべらべらと惚気てみせたけど、その対象はあくまでも『手近なところにいる獲物』という風でしかなく、恋人だとか彼女だとかいう次元ではないらしい。つまり未だ手は出していないようだったし、いつ打って出る気なのかって点にもちっとも言及しない。ただ二人の距離が以前よりもわずかに縮まったことだけは聞いてる分にも把握できる、そんな状況にあった。
 それで結局のところ、先輩は小坂さんのことを好きになったんだろうか。俺が抱くその疑問は惚気話を聞かされる現在でもまだ色濃く残っていて、先輩は彼女について可愛いとかいろいろ教えてやりたいとかブリーダーに俺はなるとかそういう発言はするくせに、彼女が好きなのかどうかははっきりと示さない。普通ならいちいち他人に言うことでもないし、聞かれても曖昧にしたがるのだって、単なる照れ隠しだったらそれでもいいんだけど、そうも見えないって言うか。端的に言って遊び半分みたいな態度すら窺えるから、こっちとしてもあまりいい気がしなかった。要は小坂さんが可愛いから手を出そうとしてるだけで、そしていかにも据え膳らしく傍にいるから彼女を選んでるだけで、他の誰でもなく彼女じゃなきゃ駄目、ってことはないんじゃないだろうか。もし彼女に執着しているなら、春から秋まで距離をじりじり縮めるだけに留めておくってこともないだろう。少なくとも、狼みたいなあの人なら。
 だから俺の納得いかなさも相変わらず続行中だった。小坂さんには幸せになって欲しいけど、先輩の態度は気に食わない。好きでもない子とだらだら、つまみ食いでもするみたいな不毛な関係を続けていくのはどうなんだ。いや、とっとと手を出せって言いたいわけでもないけど。むしろ好きじゃないなら手を引けと言いたい。部外者としてそこは越えちゃいけない一線だろうから、言わないようにしてきたけど。

 その九月。俺は別件で石田先輩について堪りかねる出来事があり、どうしても我慢ならなくなったので秘密裏に安井先輩と連絡を取った。
「――石田先輩をぎゃふんと言わせる方法を教えてください」
 電話越しに息巻く俺に対し、安井先輩は一瞬の沈黙の後で爆笑した。
『ぎゃふんって今時!』
「言葉の古さとかはいいですから! とにかく俺はもう、ものすごく腹を立ててるんです!」
『聞いてる聞いてる。指輪のカタログを見つけられたんだろ』
「そうです。あまつさえそのことを、飲み会でネタにされたんです!」
 公開処刑もいいところだった。俺の机の引き出しを勝手に開けたのはまだいい。そこにアクセサリー店のカタログを見つけて、付箋がついてるのにも気づいたら、黙っててくれるのが優しさというものじゃないだろうか。それを石田先輩はあろうことか営業課の飲み会の席で、皆の前でばらしてしまって、俺は営業課一同から冷やかしまくられるという拷問を食らったのだ。
『でもそれは、霧島だって悪いんじゃないのか』
 安井先輩の声は半笑いだ。電話の向こうではきっとにやにやしていることだろう。
「先輩まで言いますか!? ああそうですか、石田先輩の肩を持つんですね!」
『いや、そうじゃない。そうじゃないけどな、どうして会社に置いといたんだ』
「だって……家に持ち帰ったら、彼女に見られる可能性がありますし」
 俺がぼそぼそ答えると、息を漏らすような笑い声がして、
『結婚前から既に隠し事もできないほど尻に敷かれてるのか』
「な、ち、違いますよ! 単にうちには隠す場所もないってだけです!」
『かかあ天下の未来が見えたな、霧島』
「だから違いますってば!」
 長谷さんは俺の部屋の合鍵を持ってて、俺が不在の時でも尋ねてきては掃除や洗濯や炊事をやっておいてくれる。そういう心遣いがいつも助かってるしとても嬉しいんだけど、見せられないものをおいそれと置いておけない点だけが悩みだ。別に尻に敷かれてるわけではありません。断じてありません。
「俺の話はどうでもいいんです!」
 旗色が悪くなってきたので俺は強引に話を戻す。
「今日は石田先輩のことで電話したんです。あの人に一矢報いる方法はありませんか?」
『石田に、ねえ』
 ひとしきり笑った後だからか、安井先輩の声には真剣に取り合ってくれてるそぶりがあまり感じられない。これはこれで腹立たしいが、あの狡猾で神経図太い石田先輩に対抗する手段を持っていそうなのはこの人くらいのものだ。今は頼るより他あるまい。
『今なら小坂さんがいるだろ。彼女のことでからかってやったらどうだ?』
 そして安井先輩が提示してきたアイディアは俺の予想の範囲内に収まっていて、いくらか落胆させられてしまった。
「それは駄目です」
『何で駄目?』
「通用しませんよ。石田先輩は小坂さんのことくらいじゃ全っ然動じませんから」
 実を言えば俺もその手段を何度か試してみたことがあったし、最初に小坂さんから打ち明け話をされた頃には考えてもいたのだ、石田先輩を小坂さんのことでからかえるようになったらさぞ楽しいだろうし、からかわれ続きの俺の溜飲だって下がるだろう、と。
 しかしながら現実は甘くなく、石田先輩は小坂さんをネタにされてもほとんど動じない。可愛いって思ってるんでしょう、と言えば素直に認めてしまうし、でも好きなんですよね、と尋ねたら嫌いだったら手出そうとは思わないよな、みたいに軽くいなされてしまう。
『そうかな』
 安井先輩が疑問の声を上げるので、俺は少しいらいらしながら応じた。
「そうです。先輩もやってみたらわかります、石田先輩はどうせ本気じゃないって」
『本気じゃないって?』
「ええ。小坂さんのこと、別にそれほど好きってわけじゃないみたいですし。そんな人をからかおうったって無理です」
 普段の態度から見ても、石田先輩からは小坂さんに対する強い好意は感じない。もちろん可愛いと思ってるのは事実のようだし、それは普段の構ってる様子からも窺えるけど、それほど強く彼女にこだわっているようにも見えないのだ。何と言うか、ひたむきさがない。
「もうちょっと必死になって落としにかかるとか、あるいは彼女のことを思った上で少し待ってるとか、そういう態度だったらまだ納得もいくんですけどね。あれじゃ単に飼い殺してるだけですよ」
『今日は随分と過激な物言いだな』
「それはもう。日頃の鬱憤も溜まってるところにあれですから。ぶつけてやりたいことは山ほどあります」
『おーおー、反抗期か。お赤飯を炊かなきゃいけないな』
 愉快そうに安井先輩が笑う。それで俺が鼻を鳴らせば、ふと宥めるような口調になって、
『でも、世の中皆がお前みたいな人間ばかりじゃない』
 と続けた。
 何が言いたいのかは、頭に血が上ってる状態でもわかった。わかったつもりだった。
「わかってますよ」
 だけど俺の言葉はすぐに、
『わかってないようだから言ってる』
 あくまでも淡々とした声に切り捨てられてしまう。
 理解はしてるつもりだった。でも、飲み込みきれてないのも事実だ。石田先輩の態度は、小坂さんの一途さを目の当たりにしていれば尚のこと、受け入れがたいものがある。
「納得いかないんです」
『そうらしいな』
「そりゃ他人事だし、俺にだって口挟む権利ないのも知ってますけどね。何で、本気で向き合ってあげないんだろうって思います。小坂さんはあんなに一生懸命なのに、先輩と来たらまるでいい加減です」
 安井先輩の言うことにも一理ある。世界中の誰もが、同じように恋愛するわけじゃない。
 ただ俺はこういう性格だし、要領が悪くて模範解答しかできないような男だから、本気じゃない恋愛というやつはどうしても納得できないし、そんなの間違ってるって思ってしまう。小坂さんみたいな、真っ直ぐでしかいられない子にはものすごくシンパシーを感じるし、だからこそ石田先輩の煮え切らないと言うか、いつでも手を引けるようないい加減な態度には腹が立つ。真面目にしか生きられない人間は、いつだって他の相手にも、同じように真面目に、本気で向き合って欲しいって思ってるんだ。どうしてそれがあの人にはわからないんだろう。
 もっとも小坂さんなら、石田先輩のいい加減さをまだ把握しきれてないような予感もするけど――彼女は観察力にも劣る赤ずきんだ。おばあさんにしては大きすぎる狼の耳にさえまだ気づいてない。ただただ相手を信じきっていて、裏切られることだって考えてもいないだろう。
『何で、あいつが本気じゃないって思う?』
 不意に、安井先輩がそんなことを聞いてきた。
「は?」
 俺はとっさに聞き返してから、ついさっき言ったばかりだろうと思いつつ答える。
「だから、一矢報いるネタにもならないって言ったじゃないですか。石田先輩は小坂さんのことでちっとも動じないから、そう思うんです。好きだとも言わないし、何か、真剣な態度じゃないし」
 でも安井先輩は軽く笑って、
『本気じゃないって言うなら、あいつが今の今まで彼女に手を出さないのはなぜか、答えられるか?』
 重ねて尋ねた。
 それで俺は思わず口を閉ざして、そんなの、と答える代わりに考え込む。――そんなのは決まっている。それも、本気じゃないからだ。石田先輩は小坂さんをいざって時のキープとして扱ってるだけで、急いで落とす必要にも迫られてないし、必死になるほどの気持ちも持ち合わせてない。単にそれだけだと、今までは思っていた。
 でも、そこに何か理由があるって言うんだろうか。確かに石田先輩はちっとも本気の態度には見えないけど、小坂さんのことをいつも可愛い可愛いと言っているし、まるで自分のものみたいにその可愛さ自慢をしては、だらしない顔ででれでれと惚気たりする。好きじゃない相手にそんなことができるものなのかと、俺はそういう態度にこそ一層の不信感を持っていたりもしたのだけど。
 こうして振り返ればそれらは、先輩が小坂さんを好きじゃないと断定できるだけの要素にはなりえない。
「……石田先輩が、実は本気だと、そう思っているんですか?」
 逆に俺が尋ねると、安井先輩はそれに沈黙で答えたようだ。それでもまだ俺は信じがたい思いで語を継ぐ。
「つまり先輩は小坂さんに本気でいるからこそ、こうして時間をかけて、大切に扱っているんだと……そういうことなんでしょうか」
 次の問いには、なぜかぷっと吹き出された。
「何で笑うんですか!」
『いや悪い。霧島は相変わらずベタで無難な考え方しかしないなと』
「ベタって何ですかベタって!」
『霧島、長谷さんに呆れられたりしてないか? あなたの言うことって面白みがないですよね、とか』
「ないです! 余計なお世話です!」
 四角四面な考え方は否定しないけど、そういう俺に長谷さんが呆れてるってことはない。多分。そう思ってないで欲しい。
「で、実際はどうなんですか。石田先輩はどうして、小坂さんを――」
『ああ、本当のところは俺にもわからん』
「わからないんですか!? なのにあんなもったいつけた聞き方を?」
『俺も知りたいくらいだ。あんな近くにいい女がいるのに、どうして手を出さないのか』
 こっちの嫌味もどこ吹く風の安井先輩が、飄然と続ける。
『でも楽しそうだからいいんじゃないか。楽しくなければ続かないよ、恋愛なんて』
 それは、確かに真理だ。
 恋愛は楽しくなければ続けていけない。人を好きになるのは自由意志の利かない強制的なものだろうけど、その気持ちを維持するのには案外と意識や労力や手間が必要だったりするのだ。忙しい人なら特にそう。
 そして石田先輩は、小坂さんといる時も、小坂さんのいないところで彼女の話をする時だって、とてもとても楽しそうで幸せそうだ。あの人は主任だし、俺よりもずっと忙しいだろうけど、飲みに行けばもう何ヶ月も彼女のことばかり話してる。
「好きじゃない子とは、楽しくなんていられないですよね」
 何となく同意を求めたい気分で俺は言ったけど、返ってきたのは気のない声。
『どうだろうな。女なら何でもいいって男だっている』
「理解できない話です」
『お前らしいよ。……とりあえず、さっきの話については考えとく』
 安井先輩のその言葉につい、何だったっけと考え込んでしまった。
「さっきの話……?」
『まさか何で電話かけてきたのか忘れたんじゃないだろうな。石田をぎゃふんと言わせたいんだろ?』
 そうだった。すっかり忘れていた。
 俺は部外者だと言い張りつつ、この件については首を突っ込みすぎと言うほど突っ込んでいる気がする。そりゃ毎日のように同僚としてあの二人の愛の劇場を見せつけられてれば鬱憤その他も蓄積されていくだろうけど。いい加減、どうにかなっちゃえばいいのに――もちろん当事者同士が互いへの感情に保証と責任を持てる状況下においてのみ、だ。
 それはさておき、さっきの話についても何か考えがあるのなら。
「できるんですか?」
『策はある。見てろ、あいつに必死な顔させてやるから』
 安井先輩はやけに自信たっぷりに笑ったものの、何しろ普段から物言いだけは仰々しい人なので、これはもう当てにしない方がいいなと俺は思った。
 復讐は自分だけでしよう。もしかしたら本当に、小坂さんのことで石田先輩をからかえる日がやってくるかもしれないし。来て欲しいのかどうか、今でも俺は自分自身の気持ちを把握しきれてないけど、やっぱり小坂さんには幸せになって欲しいんだよなあ。

 そして俺は実際に、安井先輩よりも先に、石田先輩の必死な顔を目の当たりにすることとなる。
 もっともそれは予想していたようなプライベートの場ではなくて、職場でだった。

「――小坂が!?」
 携帯電話を片手に、石田先輩が声を上げる。その表情も周囲の空気ごと強張っている。
 通話の相手は直前のやり取りから察するに、安井先輩のようだった。安井先輩の傍には既に退勤した小坂さんがいるらしい。そこまでは電話を取ったわけでもない俺にも把握できた。
「小坂、何か言ってるか?」
 石田先輩はいつになく気遣わしげに尋ねている。
「だから……その、俺に叱られたとか。俺にきついこと言われたとか」
 無理もない。今日の小坂さんは記念すべき初営業で、本当ならそれは緊張しながらも無事に終わってしまうべきものだったのに、あろうことか彼女は取引先に忘れ物をしてしまうというミスを犯したのだ。石田先輩はそのフォローに追われ、挙句帰社した小坂さんを叱るという難儀な大役を果たしていた。叱られた小坂さんは深く深く反省していて、退勤する時までずっとしょげ返っていた。さっき、すごすご帰っていくのを見た。
 誰にでも――俺にだってあった、ごくありふれた小さなつまづきは、でも小坂さんにとっても、叱る側の石田先輩にとっても気の重い出来事には違いなかった。俺は小坂さんが帰ってから先輩に声をかけ、柄にもなくちょっと励ましておこうかなんて気になってて、先輩もそれには応じてくれていたのだけど、そこに安井先輩から電話が入った。
 何か聞かれたのか、石田先輩は早口気味に答えている。
「帰ろうかって思ってたとこだ、それで、小坂は!」
 小坂さんはどんな状況なんだろう。安井先輩の声は聞こえないからちっともわからないけど、石田先輩の表情は一層硬くなり、奥歯をぎりっと噛む音すら聞こえたようだった。いつしか椅子を蹴飛ばすように立ち上がって、
「わかったすぐ行く!」
 帰り支度も途中で、開けっ放しになってるカバンすら構わずに営業課を飛び出していこうとする。当たり前だけど相当慌てているみたいで、出て行く直前になって尋ねていた。
「ところでお前どこにいる? 人事? 人事でいいのか?」
 答えはすぐにあったんだろうか。石田先輩は数秒後に黙って電話を切り、その後で本当に駆け出した。
「あ、ちょっと先輩!」
 俺の声なんて届かなかっただろうし、聞こえたところで立ち止まりもしなかっただろうけど――置いてけぼりのこっちは営業課内の微妙な、何があったか聞きたがってる皆の視線を一身に浴びて、先輩が放り出してったカバンも目の前にあって、とりあえず身動きの取れない状況だった。まさかこのまま帰るわけにもいかないし、いつ戻ってくるとも知れないあの人を待っているより他ないのか。
 だけど、不謹慎な感想だろうけど、思った。
 あの人でもあんなに必死な顔して、女の子を追っかけていくことがあるんだ、って。
 もちろん状況としては、先輩はあくまで上司として小坂さんのところへ飛んで行ったんだろうし、小坂さんだって今は好きな人に駆けつけてもらうよりも、自分を叱った上司にこそ来てもらいたいって思ってることだろう。俺にはわかる。そうして改めて謝って、次は頑張りますって言えたら、彼女はまたすぐに元気になれるはずだと思う。だから心配は要らない。
 仕事の失敗から立ち直るのに必要なのはほんの少しのやり取りなのに、現実にはそのやり取りすら満足にしておく暇がない。だからその為に時間を割いてくれるあの人は、とてもいい上司なのだと思う。
 俺は石田先輩の恋愛観には全くもって共感してないけど、今後もできるかどうかわからないけど、あの人を上司として、あるいは先輩としては多少なりとも尊敬している。だから、小坂さんのことでも失望したくなかった。――理由としてはこんなところだろうか。
 せっかく赤ずきんは狼をおばあさんだと信じきっているところなんだから、狼ももうちょっと頑張って、装うなり騙してあげるなりすればいいのに。先輩はオープンにもほどがある狼だ、ずっとそう思っていた。でも、当の赤ずきんちゃんがそういう狼を好きだというならしょうがない。そして狼の方も、おばあさんのふりをしなくたって赤ずきんちゃんと一緒にいられるってわかったから、あんな風に気を抜いてだらだらと、彼女の傍をキープし続けてるんだろう。
 赤ずきんの話はとても教訓的だ、こと、傍で見てるだけの第三者にとって。赤ずきんには赤ずきんの、狼には狼なりのものの見方が存在していて、それはただの部外者に正しいとか正しくないとか断じられるものではないんだろう。赤ずきんは必要なら狼の耳や目や口の大きさを疑うのだろうし、狼だって必要とあればおばあさんに化けておくんだろう。あの二人には単に、それらが不要だと言うだけの話だ。

 三十分ほどして狼――もとい石田先輩は、さっきまでの緊迫感はどこへやらというだらしのない顔で戻ってきて、これには俺も苦笑せざるを得なかった。
「心配して損しました」
 すると先輩は疲れの色も見せず、とろけ落ちるような笑みを浮かべて、
「悪かった。でもほら、お蔭様で丸く収まったし、小坂も元気になってたし」
 とか何とか、でれでれした顔で言うものだから。
 俺はどうしてこの人が本気じゃないとか、ひたむきじゃないって思ったのかって今更のように首を捻った。本気で惚れてない男が、女の子の言動一つでこうもころりと立ち直っちゃうものだろうか。この場合、観察力の足りない赤ずきんはむしろ俺の方だろう。

 おばあさんの顔はどうして、彼女の話をする時だけ、そんなに緩みっぱなしなんですか?
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