禁句の多い企画室(2)

 うちの企画室では、横文字を禁止しています。
 それは上司とて例外ではありません。
「桧山と雪浦、コーヒー飲むか?」
 角谷室長はそう言って席を立ちました。
 しかし私達が見つめているのに気づき、
「いや『珈琲』! 漢字だから! 横文字じゃない!」
 優しい上司ですが、罰金率も一番高いです。

「こんな罰則、おっさんには辛いよ」
 貯金箱に百円を投入した室長が嘆きます。
「そもそも横文字の拒絶反応なら、根源を断つべきじゃないか君達」
「室長が先陣切るならついていきます!」
「是非とも陣頭指揮を!」
「君達、俺を陥れる時だけ仲いいよな」
 いえいえ、私と桧山さんはいつも仲いいですよ。

 桧山さんは優しい先輩です。
「雪浦、食べたがってただろ」
 そう言って、チョコレートをくれました。
「ずっと考えてたんだ。黒くて甘くて豆からできてるものって何だ、って」
 どうやら気にしてくれていたみたいです。
「正解です。さすが桧山さん」
 私が誉めると、桧山さんはとても嬉しそうでした。

 私は貰ったチョコを桧山さんと半分こしました。
「ずっと考えててくださったようですから」
 感謝を込めて告げると、彼はなぜか慌てます。
「いや、考えてたってのは違うからな!」
「何を考えてたんですか?」
「だからチョコのことだって――あ!」
 慌てた末に自爆しましたが、優しく愉快な先輩です。

 優しい先輩に私は仕事でご恩を返します。
 今は一緒に椅子のデザインを詰めています。
「雪浦、設計はどうだ?」
「あとは枠の色合いを決めるだけです」
「やっぱ職場に調和する色じゃないとな」
「はい。週明けには試作品の発注できそうですね」
 横文字禁止も徹底しています。近頃では慣れたものです。

 ただ、どうしても和訳しにくい単語もあります。
「背面をあみあみにしたのはよかったよな」
「ですね。あみあみだと夏場も背中が涼しいです」
「設計もしやすいしな。豪奢な意匠にできる」
「あみあみ、本当に素晴らしいですね」
「……桧山と雪浦。『あみあみ』って何?」
 それは言えません、禁句です。

 罰金払うから教えてと言われ、私は快く説明します。
「あみあみとは、メッシュのことです」
 背面メッシュ、座面は縮緬のクッションです。デザインもラグジュアリーを目指しました。
「なるほど。よし、完成に向けラストスパートだ!」
「……室長、罰金です」
 室長は項垂れて、二百円を投入しました。

「しかし頑張ってるな、桧山も雪浦も」
「雪浦は打ち上げが楽しみなんですって」
「はい。実は行きたかったお店があって」
「そんなの、今夜でも桧山が連れてってやれよ」
「な、何で俺に言うんすか!」
「そうですよ。仕事終わってないの、に打ち上げなんて駄目です」
 だからこの仕事、終わらせましょう。

「なんであそこで『俺が連れてくよ』って言わないかな桧山は」
「だから! 室長はなんで俺に言いますか!」
「なんでかなあ。ま、俺はオフィスラブには寛容だよ」
「あ、罰金ですよ」
「おお、払う払う。喜んで払うよ」
「しかもにやにやしてるし。何なんですか」
「なんでかなあ。ともかく頑張れよ、桧山」

「桧山さん、室長に呼び出されてましたね」
「ちょっとな。あとこれ、室長の罰金」
「室長、またですか。今度は何て?」
「……気にすんな。それより、今度誘いたいって言ったの覚えてるか?」
「もちろんです。楽しみにしてます」
「だよな! ほら見ろ、気回されなくても誘えてんだよ!」
「何の話です?」