禁句の多い企画室(1)

 うちの企画室では横文字を禁止しています。
 例えばこんな感じです。
「桧山さん、お昼どうします?」
「店行って買ってくる。ついでに買う物あるか?」
「私、甘くて黒いものが食べたいです」
「かりんとう?」
「違います。原材料は豆です」
「おはぎか!」
「違います」
 こんな感じに、回りくどいです。

 ただ禁止しているだけではなく、横文字を使ったら罰金百円です。
 だから私も桧山さんも必死です。
「雪浦、これ四枚複写しといて」
「了解です。大きさはこのままでいいですか?」
「ああ。けど、もしかしたらインクが――」
「えっ?」
「――染料が、切れてるかもしれない」
「はい桧山さん、罰金です」

 桧山さんは狡い人で、時々私を嵌めようとします。
「ゆきうらー、来週の火曜日は何の日だ?」
「知らないです」
「三月十四日だろ。先月お前は俺に何くれた?」
「知らないです」
「引っかかんないか。ところでお返し何だと思う?」
「指輪ですか?」
「そ、んなわけないだろ、ホワイトデーだぞ! ……あ」

 実は私も時々やってしまいます。
「桧山さん、生地見本揃えました」
「ありがとな。お前はどれがいいと思う?」
「私は、このファー生地が――」
「ん? 雪浦、何て言った?」
「……ふあふあっとした生地が、いいと思います」
「往生際が悪い。はい、罰金百円!」
 仕事柄、横文字禁止は大変辛いのです。

 そもそも横文字禁止になったのは、うちの社長が英語かぶれだからです。
「我が社では新たにレディスをターゲットにしたラインをスタートアップすることにした。コンセプトは『ラグジュアリーでコンフォートなオフィス空間』だ」
 企画会議でのこの発言に、企画室では横文字アレルギーが起きたのです。

 我が社は事務機器メーカーです。企画室では、豪奢で快適な女性向け事務椅子を設計しています。
「けど、ふあふあっとした生地はないだろ。夏は暑い」
「桧山さんは何がいいと思います?」
「縮緬かな。季節を選ばないし、色バリエも豊富だ」
「バリエ?」
「……あー! 頑張って『縮緬』っつったのに!」

「罰金、結構貯まってきたな」
「ですね。私、この企画が片づいたら行きたいお店があるんです」
「へえ、どんな店だ?」
「えっと……異国風の、食堂と言うか……」
「なるほど。打ち上げは罰金でそこ行くか」
「はい。楽しみにしてます」
「じゃ、頑張って罰金貯めないとな」
「なんか変ですね、それ。ふふ」

「俺もな、この企画が片づいたら、お前を誘おうと思ってたんだ」
「へえ。どこに連れて行ってくれるんですか?」
「それは内緒だ。言うと罰金だからな」
「横文字禁止、全く不便ですね」
「まあな。でも、お蔭で目標ができた」
「罰金刑があると気が引き締まりますよね」
「……それだけ、じゃないけどな」