隣の席の赤ずきん

 昔々、あるところに大変ひねくれものの狼さんがいました。
 狼さんはとにかくやることなすことが遠回しです。ある日森の中で見かけた赤ずきんちゃんに目を付け、彼女を食べてしまおうと思いついたのはいいのですが、彼女のところへ出向いていく勇気がありません。そこでわざわざおばあさんの家へ乗り込んで、おばあさんのふりをして待ち伏せをする、という作戦を立てました。

 そして、赤ずきんちゃんからは毎日のように電話が掛かってきます。
『おばあさん、ごめんなさい。今日も行けそうにないの……』
「ああ、そう」
 狼さんは力のない声で答えました。何せもう一週間もおあずけを食らっているのです。いい加減、お腹がぺこぺこでした。
 しかし赤ずきんちゃんは言います。
『森の中で迷っちゃって、今日もおばあさんの家まで辿り着けなかったの。気が付いたら私の家まで戻ってきちゃうんだもん』
 赤ずきんちゃんはやることなすことが失敗ばかりのうっかり屋さんでした。おまけに気が利かないので、毎日同じことの繰り返し。道に迷うことしか出来ません。
 地図を描いて貰うとか、道を聞くとか、いろいろ出来ることはあるだろと狼さんは思うのですが、ひねくれものなのでアドバイスはしません。ただ心の中で思うだけです。
「大変だね」
 まるで他人事のように答え、赤ずきんちゃんが電話の向こうで笑うのを聞きます。
『待っててね、おばあさん。明日は必ず辿り着いてみせるから!』
「……頑張って」
 狼さんはそう言いつつも、多分明日も無理だろうな、としみじみ思ったのでした。
 しかしやはり、自分から赤ずきんちゃんのところへ出向いていく勇気はありません。既にお腹はぺこぺこですが、ひねくれものの性分というのはなかなかに厄介なものなんだ、と狼さんは呟きました。